CROSS to YOU. » year » 11月

遺書

流した涙。
果たされなかった約束。
髪を撫でる、優しいてのひら。

全てを飲み込んで季節は巡る。



11月に出会い
12月には恋をした。

1月に恋人になり
2月には毎日を過ごした。

そして3月。
あたしを抱きしめてあなたは旅だった。

そこから始まる遠距離恋愛。
電話と手紙だけの日々。
新社会人の二人には、自由になる時間が何よりも欠落してた。

4月に待ち侘びて
5月に抱き合った。

6月淋しくなって
7月に電話を辞めた。

そして8月。
仕事場を出た後、駐車場にいるあなたを見つけた夏休み。

「 11月になったら辞令がでるから、そしたら結婚してくれないかな 」
ベッドの上、髪を優しく撫でながら、あなたは掠れた声で告げた。

左手の中指に光る指輪。
泣きじゃくるあたしを抱き締めるあなた。
小さな不安なんて吹き飛ばすほどの深い愛。

9月に言語と格闘しはじめ
10月には結納を交わした。

そして11月。
辞令が出たあなたと、仕事を辞めたあたし。
12ヶ月の足跡を思い返して、あたしはあなたの前から、姿を消した。



身体の水分が蒸発してしまうほど流した涙。
果たされなかった遠い日の約束。
思い返して瞼を閉じた。

決別の日から3年。

雑踏であたしを見つけたあなたの姿。
昨日のことのように思い出せる。
駆け寄ってくるその姿は、眩暈がするほどあなたのままで。
抱き締めるその腕も、風に揺れるその髪も、眩しいほどのその身体も。

再会の日から4年。

「 一度壊れたものは、元通りになんてならないよ 」
「 元のもの以上にいいものに作り直せばいいだけだよ 」
「 そんなの詭弁だよ 」
「 俺もオマエも、そういう仕事をしてるはずだろ 」

デザートを食べるあたしの目の前に、差し出された小箱。
いつになく丁寧な手つきであけられたその中には、店内の光を反射して輝く指輪。
その光が眩しすぎて、あたしはデザートスプーンを置いて、ゆっくりとその蓋を閉じた。

「 しあわせにするなんて偉そうなこと言えないけど 」
「 俺はオマエとしあわせになりたい 」

「 しあわせになんて、なりたくない場合はどうしたらいいの? 」
「 えっ 」

受け取らなかった指輪と、削除したあなたの連絡先。
全てを終わりにするために、あたしは何もかも排除しなくてはならない。
決意をさせたのは、あなた。

清算の日から2日後。

「 もう誰にも遠慮はしないから 」
ポストに入ってた小箱に添えられたカードには、11月15日の日付と教会の名前。
ほら、こうやってあなたは、いつだってあたしを身動き取れない状態にする。



サヨナラの鐘を鳴らそう。
全てに。
全てのものたちに。

あたしはきっとどこかで
あなたを想って生きていくから。

サヨナラ。
だからサヨナラ。
是があたしからあなたに送る
一生で最後の
二度と触れ合わない決心。

恋にも愛にも終わりがあるとしたら
是があなたに送るあたしの愛の遺書。

だから今は
ほかの事は全て何処かによけておいて
純粋に気持ちだけを伝えよう。

愛してる愛してる愛してる。

07 / NANA