1月
だから、1月はわたしの月なんだってば。
朔は酔うといつもそう言う。
ココナッツミルクの白に混じる、砕かれた氷の粒、ランプに反射してきらきらひかる。
ほんのりと日に焼けた頬は、ピニャ・コラーダたった1杯で朱に染め上げられた。
底が見えないくらい漆黒の瞳は薄い水の膜に覆われている。
零れる言葉はまるで息をするのと等しく、すんなりと耳を通り、身体の中に染み渡る。
それくらい朔は、何度も何度も繰り返すのだ、その言葉を。
歌うように軽やかに、夢見心地にさらわれたように目を伏せて。朔といえば、1月。
そして、流れる沈黙がわたしたちのルール。
何故かと問い返さなくても朔は勝手に言葉を紡ぎ、わたしは静かにグラスを傾ければそれで済む。
1月に朔が生まれたわけでもなく、朔にいいことがあった試しもなく、朔が何かやり遂げたわけでもない、ただ。
彼女の名前がはじめという意味をもつ、ただそれだけで彼女はそう主張する。
考えてもみてよ、朔って、はじめっていう意味だよ?
あたらしい年の初めの31日、それは全部わたしのものになってもいいと思うよ。
羅列された言葉群は、1月のクリアーな空気に飲まれて、溶けてしまいそう。
堂々巡りする朔の言葉を聴きながら、わたしはガーネットキールの揺れる水面に目を落とす。
ゆらゆら、ゆらゆら。
1月1日の誕生色が白だと知ってから、白いカクテルを頼むようになったひと。
何の因果もないというのに、ただ「はじめ」を独占したがる、無垢なひと。
なるほど、怖いもの知らず、未知へ飛び込むトップバッターには丁度よいひとなのかもしれない。
無色透明のベースを持ち、それは折り重なる11の月たちに染め上げられていく。
なるほど、朔は1月のひとなのかもしれないと今日はじめて思ったのはこの紅いお酒のせいだろうか。