天使の声

太陽の光が照付ける中、彼はそこにいた。
鬱蒼と並び立つ石の樹木の頂点
拒むように誘うように動かぬ
錆付いた柵ににもたれるようにそこにいた。
遥か下に蠢く人の群れをただ見つめていた。

「オレはね、この街が嫌いだったよ」
彼はゆっくりと空を見上げそう洩らした。
『そうね、あなたはこの街にいつもいた。・・でも憎んでいたわね 』
姿は無くそれでも彼には届く涼やかな女性の声。
照付ける陽光に手を翳し目を細め
「自分だけを思い、居場所を探し・・」
──快楽の中で生きる街
彼は言葉を止め、目を閉じる。


何をするでもなく漂っていた。
目的も無くただ導かれるように。
何も考えることは無く
これでいい今があればと思っていた。
薄汚れた光を照らすネオンも
塵にまみれた道すらも
すべてが自分を許している気がした。
繋がりの無い薄っぺらな友もいた。
それでも思いは同じだった。
霞のかかった心にはすべてが優しかった。
──だからこそ憎かった。


『でも貴方は私を見つけた』
声が響く
「そうだ、オレは見つけた」
思いが揺れる


そう、キミの声が導いた。
人としてあるべきことを。
開放であり前進。
なすべきことを。
遺伝子に眠る渇望を
神の子である証を
血とともに流れる
そのモノを。


彼はゆっくりと柵をまたぎ
「キミと出会えて変われたよ。・・選ばれる喜びなのかもしれないな」
屈託無く笑う。
「もっとも神に近い天使の声を聞いて、神の意思たるレミングスの子供に」
ゆっくりと空に顔を向け空に羽ばたく。
満ち足りた笑顔で目を閉じ
遠ざかる空に思いを寄せて
彼は昇華する・・・・。

アスファルトの大地に横たわり
満面の笑みで
神々しくも美しい
命という名の赤い翼を広げ
何も損なうことも無く
彼は昇華した・・・・・。

様々な国籍の人々が
野次馬のように彼を囲む。
酒と煙草の匂いと
無関心な目が彼を囲む。
袂に揺らぐ少女の影。


  神の消え行くこの街で
  貴方は会ってしまったのね
  心に住む天使に
  始まりを誘う天使に──


揺らぐ少女は澄み渡るベルを鳴らし
誰もが心に見たちいさな光となり

街はまた、いつもの街へと向かう。

夢工房夢月堂 / 姫新翔