埋葬

鉄腕アトムの曲が流れて
ゆるやかに電車が行き過ぎる。

振り返った目に映ったのは
あの時と変わらない

──雑多な学生の渦。


父の会社が不況の煽りを受けて倒産したのは
私が高校3年の時だった。
つきあってた彼と一緒の大学を目指して勉強してたけれど
それも全てが無駄に終わった。

大学に無事進学をした彼と
就職を余儀なくされた私。
若かった2人がすれ違うには、十分すぎる理由だった。

甘い痛みを抱いたままゆるやかに時間は流れ
家族全員で頑張ったおかげで、父の借金も何とか返し終わった。
全てを知った上で私を選んでくれた上司と
2年前に結婚して子供も出来た。
今の生活に不満なんて何一つ無かった。

どうしてここに降りちゃったんだろう。
今となっては過去の幻影でしかないこの街に。

※     ※     ※

由美子から電話がかかってきたのは昨日の事だった。
「直人クン、事故で亡くなったらしいよ」
受話器を握り締めたまま、私はソコに立ち尽くした。

まだ、伝えてないことがあったのに──。

どこかに逃避したかった。
現実から剥がれ落ちた薄い一枚のフィルムのように。
どこでも良かった。
でもここじゃないと駄目だった。

始まったのはここからだった。

私の全てが
彼の全てが
始まったのがここからだった。

キオスクで、彼の吸ってたタバコを買う。
ライターも一緒に買って、駅を出た。


早稲田大学までの道を、タバコを吸いながら歩こう。
私だけが出来る、アナタへの
独りきりの

──埋葬。


ゆっくりと吸い込んだ煙を空に吐きながら
灰になってゆくだろう遠いアナタを思った。

07 / NANA