大塚

上京して1年、僕は未だにこの街に馴染めないでいる。

例えばそれは人ごみだとか歩く速度だとか

今乗っているこの電車だとか。



ピッピピピッピピッ…



先ほどから向かいの席の女性が携帯をいじっている。

しかし誰一人として注意をしようとはしない。

かくいう僕もその内の1人だ。



ガタンゴトン…



この街で教わったのは干渉してはいけないということ。

それがこの街で上手く生きていく術なのだ。

誰もが皆、仮面をつけている。



ピッピピピッピピッ…



向かいの席の目鼻立ちのはっきりとした綺麗な女性。

きっと顔文字なんかも使っているんだろう。

彼女は無表情で打ち続ける。



ガタンゴトン…



仮面をつけて生きるのが無性に苦しくなる時がある。

彼女も僕のような気持ちになるのだろうか。

もうずいぶんと笑っていない。



「次は大塚、大塚~」



彼女は携帯をしまうと、立ち上がって行ってしまった。

彼女が仮面を外すなんてことはないだろう。

だって彼女は大塚娘だから。

志士仁人 / 瀬名