オーバードライヴ

高校から35分。
急ぐわけでもなく辿り着けるのがこの時間。
我が家のある日暮里駅。
ここまで来ると気分的に落ち着く。

自転車で高校まで通うようになってもうすぐ3年。
最初はかなりキツくて音を上げそうになったけど
慣れてしまえばなんてことない距離。

なけなしの小遣いをはたいて買ったロードレーサー。
恥ずかしいけどドードーって名前もついてる。
ドードーはもはや体の一部と言ってもいいぐらい。
最近では日に何度か往復してもまったく疲れない。
それどころかメッセンジャーの人たちにすら
引けを取らない速さで追い抜くことも多くなった。
ヘッドハンティングされたらおもしろいな。

と、ノンキな事を考えてた瞬間だった。
信じられない光景を目の当たりにした。

公道を走るにはふさわしくないラリー仕様のスポーツカーが
暴走とも言える速度で交差点に突入してきた。

そして・・・・・






撥ねた。

車は下品なウィングの残像を残して走り去る。
もはやベビーカーとも呼べなくなった塊と発狂する母親。
赤ん坊の姿は見えない。

自然と体が動いた。
細胞が反応した。

気がつくと走り出していた。
ナンバーは見た。
逃げるとすれば駅の向こう側だ。
自転車なら先回り出来る。

大通りに出た。
車の間を縫って中央分離帯へ。
不快なエンジン音が近づいてくる。
迷うことなく音のする方へ走る。

無我夢中で走る。
今までに出したことの無いスピードで走る。
メーターはレッドゾーン。
ドードー、力を貸してくれ。
加速するドードー。

何も考えずに車へと突っ込んだ。
腰が浮き、体が浮く。
車を飛び越す形で吹っ飛ぶ体。
大きなブレーキ音と何かが潰れる音。

ざまあみろ。

中央分離帯の垣根に叩きつけられた。
何か獣のような鳴き声と共に
円形の物体が顔に直撃した。

かろうじて開いている左目に映ったそれは
ドードーの後ろ足だった。

視界が赤く染まった。

父親がしてくれたように自分も勉強を教えたかった。
教師を目指したのもそれが目的だった。

悔いはない。
何故なら教えるべき息子はついさっき旅立ったばかりだから。

青洞 / FOSSIL