フォンダンショコラ

君と出会ったのはいつだっただろう。
海外赴任中だった僕はパティシエ見習いの君と出会って
だいぶ変わったんだろうと思う。

セーヌ川にかかる橋でぼんやりと佇む君を見て
僕と同じ匂いを感じたんだ。
母国から遠い異国の地で暮らす辛さを。

僕らは毎日のようにランチで出会った。
今思えば寂しさを紛らわせるだけの関係だった。
お互いの傷を舐め合うだけの関係。

ある日、突然君から別れを告げられた。
このままではワタシもアナタもダメになる。
確かに仕事が手についていなかった。
呆然としていると君はバッグから
「ワタシの最高傑作」
と小さな箱を残して僕の元から去っていった。

フォークを入れると中から光沢を放ったチョコが
とろけだしてくるケーキは今でもまだ覚えている。

精神的に強くなろうと決めた。
仕事に専念する日々。
君に溺れていた時間を仕事に充てるだけで
会社での評価は急速に上がっていった。

本社へ戻れる話が出て君の事を諦めかけていた僕は
海外赴任を終えて日本へと戻った。

ある日、僕はクライアントとの打ち合わせの為
新橋駅までやって来た。
喫茶店で時間を潰そうとした時だった。
駅前広場にある機関車の向こうに君を見つけた。

僕は追いかけて声をかけた。
再会を喜び、そしてお互いの成長を称え合った。

ポンヌフで出会い新橋で再会した僕ら。
これから一緒に新しい橋をかけないか?
と僕は君にプロポーズした。

montag / ユウジ