卒業旅行

今日何度目かの「よっこらしょ」発言。
どうにも私の友人・美佐江はオヤジ化が進んでいるようだ。
「あんたさぁ、そのかけ声どうにかしたら?」
呆れて彼女に文句を言うと、
「だって、言うのと言わないのじゃ勢いが断然違うよ?アキラも言ってみ?」
と、可愛い顔してそんな答えが返ってきた。

初めて会った時には、なんて儚げな子なんだろう、と思ったのがまるで嘘のように、
美佐江はよく喋るヤツだ。本当によく喋る。
高校生活ずっとヤツのお喋りに付き合わされた様な気がする。
高校生活が終わっても、何故だか大学まで一緒だった。
美佐江曰く、
「アキラ一人じゃ心配だから一緒の所に行くの!」
とかなんとか。
確かに私はあまり人付き合いが上手くない。
多分、美佐江が話しかけてくれなければ、クラスでもずっと浮いた存在のままだっただろう。

その当時、両親が離婚する、しないともめていて、
美佐江の「聞いてよ!」「彼がね、彼がね」なんてうっとおしい
お喋りがなければ、私は堕ちる所まで堕ちて這い上がる事も出来ずに
リストカットなんて今時の若者っぽい事をしたり、
心の病気になっていたかも知れない。
美佐江が付きまとってくれたお陰で、私は道をはずさなかった。
それは本人に言った事はないけれど、ずいぶん感謝している。

「ねぇ、沖縄!楽しみだね」
ニコニコ、と美佐江が微笑む。
なんだか昔に浸っていた心の中を見透かされたようで少し焦った。
「そ、そうだね」
「・・・それにはこの階段を、なんとか登り切らないとねぇ」
大きなバッグを両手一杯に抱えながら、彼女は言う。
そのバッグの中には、いったい何が入って居るんだろう。
私のよりも2倍は大きい。
それを抱えて、彼女はさっきから「よっこらしょ」「よっこいせ」
と一段一段階段を登っているのだ。

「・・・普通にエスカレーターに乗っておけばよかったんじゃないの?」
ホームの遠くに見えるエスカレーターの標識を指して、私は言った。
「駄目!まだダイエットが終わってないの!今から海に入るまで2キロ痩せるの!!」
と馬鹿な美佐江らしい答えが返ってくる。
「無理だろ、それは」
「無理でも痩せないと、みっともないのぅぅぅぅ」
泣き崩れた。どうにかしてくれ。
アンタはいつでも可愛いよ、そのままでいい。
恥ずかしいセリフだけど、そう言いそうになった。

この卒業旅行が終わったら、私たちは別々の会社に就職する。
寂しくなるな、なんて感情が心をよぎった。
「いいよ、待ってるからしっかり登りな」
「うん、ありがと」
女二人の卒業旅行、現在位置浜松町駅、ニライカナイまではまだまだ遠し。

monochrome / tomoakira