迎え散り

かみさまなんていなひのだとゆうたのは、あなたでしたね。


今年もつばきが寒々と咲いております。
雪をかむつて、しらがのおばばのやふになつております。
しらがのばばの、あかいおべべ。
かみさまなんていなひのだとゆうたのは、あなたでしたね。
あら、ずいぶん遠ひ頃のことをおもひおこしてしまいました。


かんつばきが咲くのは、春のためだとゆうたのはおばばでしたね。
花は、散るがために咲くのだとゆうてましたね。
散る花は、あらたしきいのちのうまれをよろこぶのだと、ゆうてましたね。
そのために、かんつばきは、はらり、はらり、すこしずつ散るのだと。
そうゆいながらあかいおべべのおばばが散ったのはいつであったことでせう。


しらがのばばは、あかいべべ着て、白い白い、雪の底へと散ってゆきましたね。
谷底をまつさらにそめる白い雪の上に、散ってゆくおばばのあかいべべが、どさりと、春のつばきのやふにおちましたね。
春のつばきは、首をぼとりと落とします。

ばばをほおったあなたのほほもあかく染まり、だいぶん白い雪げしきに映えていましたよ。
ばばをほおったあなたのめめもあかくなり、あなたはゆうたのでしたね。


かみさまなんていなひのだと。


ぼたり、ぼたり、雪の上に咲いたあかいあかい血をわたしはわすれていませんよ。
それは少しずつ散る冬のつばきのやふでした。
かみさまなんていなひとゆうたあなたは、ばばをほおった次の日に、谷底に身を捨てました。
あなたのからだはやぶ枝にささり、ぼとり、ぼとり、谷底にいくつものあかい花びらをさかせましたね。


今年もつばきは寒々と咲いております。
わたしのところでは、おとこがおらずとも、なんとかなっておりますよ。
あの春うまれたややが今ではあいらしい娘になりました。
ややは村のみんなからこのまれました。
そして、わたしの頭はしらがにかわりました。


こよい、娘がわたしにあかいべべを着せてくれます。
娘のむこどのが、わたしをせおってくれるのです。
娘のおなかには春ごろうまれるややがおります。
むこどのにはおねがいしておきませう。


かみさまはいますよ。
かみさまはいて、そうしてあらたしきいのちをさずけるのですよ。
だから、むこどのは、あなたのやふに身を投げないやふに。
むこどのは、わたしを谷底に散らすことで、あらたしきいのちをはぐくむのですから。


散る花は、あらたしきいのちのうまれをよろこぶのですから。


こよい、わたしはあなたのもとへゆきますね。

つな缶。 / とびたつな