さぽてんの居場所

「お前の部屋日当たりがいいから、サボテン買えよ。」
と裕也が言った。
「もっと、観葉植物らしいのがいいよー。サボテンだとなんだか殺風景だよ。」
「いや、絶対。サボテンがいい。」

そういって裕也は、無理やりサボテンを私にかわせて
置いてった。

裕也と付き合い始めて3年。
特にデートっぽいことは全然していないけれども
二人でホームセンターに行ったり
くだらないビデオをみたりして
あーだこーだ言っているのが楽しかった。

なんだかんだ文句をいったサボテンも
私の部屋の一番日当たりのよい場所においてあげている。

裕也が私の部屋に来るとサボテンに勝手に名前をつけて
「チクリン。今日もとがってんな。」とか言っている。

そうやって二人は、毎日を過ごしていた。
あの日まで。

二人は、会話がすくなり笑いあうことも少なくなった。
簡単に言ってしまえばマンネリなのかもしれない。

こんな状態のまんま続けるには私には、元気がなかった。
もっと華やかな未来があるんじゃないかと考えた。

笑うことなく裕也がみたいという映画を見に行った帰りの
夕飯のときに

「ねぇ。もう別れよう。」といったのは私だった。
どうして?ときかれたら答えようがなかったけれども
なんとなく言い出してしまった。

裕也は、別段驚いた様子もなく
「そうだな。」といって最後に残っていた1cm程度の
コーヒーを飲みきった。

「そうだな。わかれるか。」
それが、最後の言葉だった。
私は、あぁ。この人と友達に戻ることもないのかなと考えつつ
半分以上残っているコーヒーをテーブルに残したまま
二人で席を立った。

別れ際、なんだかさわやかに握手をして
「また、連絡するよ。荷物とりにいかないといけないしな。」といって
裕也は別れていった。

歩道橋をわたりながら、
あぁ。なんにものこらなかったなと思って寂しくなったけれども
これで私は色んなところに進むことができると思って
楽しくなった。

いつもデートの後は、裕也が私の家に来て泊まっていくというのが
定番だったのでなんだか不思議な気分で
1人で部屋の扉を開けた。

月明かりに窓際のサボテンが、植木鉢の上からなくなっているのに
初めて気付いた。
サボテンだけ盗まれた?と馬鹿な想像をして
1人で噴き出した。

そっと、近寄ってサボテンの植木鉢を見てみると
サボテンがあった場所に何もなくなっていた。
よーく眺めてみると、黒い影があったけど
サボテンは跡形もなくなくなっていた。

裕也が、チクリンと呼んでいたあのサボテンはなくなってしまった。
思い出なんかにこだわりたいなんて思わないけれど、
いつなくなったのか気付かないほど、私は私のことしか見ていなかった
ことに気付いて1人で大声で泣いた。

あのサボテンを植えていた植木鉢のように、
私の心もサボテンがあった場所が抜け落ちてしまったみたいだ。

暫く私は、ぼーっとすごし
裕也が、たまに荷物を取りに来てもぼーっとしていた。
あまりにもボーっとしているので
裕也がびっくりして
「お前大丈夫か?」と聞いてきた。
私は、小さくうなずいた。

サボテンがなくなっても気付かない私は、その後も3ヶ月ぐらいぼーっとして
やっとなんだか整理をつけて図書館に向かった。
サボテンのなくなった理由を探しに行くために。

ぽわり / うり