Shed Crocodile Tears

満員電車の中で、車窓の向こうに好きな男の顔を思い浮かべてみる。
窓に移っては消えていく夜の町並みは私の気持ちをコマ送りにして
暗闇に映る私の顔は歪んでいく気がした。
電車が進んで景色が流れ去っても、その顔は私の目の前から消える事はない
それを見るまいと私は目を閉じて、イヤホンから流れる音楽に集中した。


改札を出て、目に入った赤提灯は手招きをする、
disk UNIONの前に陣取った屋台は空いていた。

食べ物の湯気と香りは、すべてを癒してくれる。
ささくれた気持ちを治してくれる様な、そんな気持ちにしてくれる。

コップ酒とラーメンを注文して、ロータリーで客を待つタクシーの空車ランプの列を眺めた。
不定期に店を出す屋台は、見つけたときに食べないといつ食べられるか分からない
なにも、真夏に食べなくてもと自分でも思う。
アスファルトが放出する昼間の暑さと、ラーメンの湯気と戦いながら
見まいとしていた、想いがまた心の隅っこから湧き上がってくる。

さらさらな髪の毛が自慢な人
後ちょっとで180センチだったのにと何時も言っていた、
いつも、私は無意識に彼の姿を探していた。
彼と居ると、自分が素敵なものになれたような気がした。

彼の無邪気な笑顔の下にある、卑屈な感情に私は触れたいと思っていた。
全てを知りたいと願っていた。
彼を侵略したいと本気で思ってた。

ラーメンを啜りながら、また男のことを思い出した

まだ、好きなんだ。

そう思うと苦しかった、
歪んだ、自分の恋心が切なかった。
すべてを飲み込むようにどんぶりを煽った。




大学通りの桜並木
薄闇の中で影を濃くする桜の葉を見上げた。


闇の中で恋をしているみたいだった。

彼が私を見る必死な目が好きだった。
私は彼に何も悟られないように、目を硬く塞いでいた。
好きになり過ぎていて怖かった。
彼の薄茶色の瞳に映る自分の姿を見たくなかった。


間違った花の咲かせ方をした。
きちんと光を当ててあげなかったから、ちゃんと栄養が行かなかったんだ。
そうおもうと、なんだか靄が晴れていくようなそんな気がした。


木の根元にしゃがみ込んでみた。
そして、涙を地面に落とした。

来年の春この桜を見に来よう。
私の涙を吸った土から養分を取った花を。
この並木が薄紅に染まる頃、私も私の花を咲かせているように。

おいしい日々 / 和。