武蔵小金井

とある日、僕がここに降りたのは仕事だった。

駅前のマクドナルドでナゲットをバカみたいに買い込んで
タクシーに乗ってスタジオに向かった。
あの頃の作業の手応えで、僕はひとつの物語を終えることを決めて
順調だったその流れを阻むことにためらいもなく、
他人の生活に影響を与えてまでも自我を貫いた。

そんな奴とはやってられないと、仕事が減っていった。
終わりの始まり。

とある日、僕がここに降りたのは遊びだった。

駅前のイトーヨーカドーで酒をアホみたいに買い込んで
歩いて友人のマリファナくさい部屋へ行った。
あの家の中での僕ときたら、ちょっとしたフリーセックスで
恋人を他の男に差し出すことにためらいもなく、
ぐでんぐでんの女達をとっかえひっかえに射精した。

そして全てが去っていき、全てを無くしていった。
終わりの始まり。

この日、僕がこの駅に降りたのはなんだったんだ?

状況も環境も何も変わらないけれど、
手応えも何もないけれど、
気分は凄く爽快で、
躁状態で、

変に、愛に満ちている。

君と一緒にいる自分を不思議に思うし、
君と人生を重ねる日が来るとは思わなかった。
僕らが交わした契約は何を変えるのだろう。

そんなことを悩みながら駅前でタバコを吸っていた。
反対側に渡りたかったからだ。
イトーヨーカドーの前を抜け、マクドナルドを越え、
僕は僕の居場所へ向かいたいんだ。

僕らが抱えてた大きな障害、
乗り越えられないと言うなら
くぐってしまえばいいと思ってた。
それが一番近道なんだって。

そんな壁が急に壊れて、僕らはどうしていいのかわからずに
とりあえず契約を結んでみた。胸を張る契約。

だけど、今までと何も変わらないよ。
気分が少しだけいいだけさ。
だからこのまま生きていく、そう決めた。

信号が変わったのでタバコを足でもみ消し横断歩道を渡る。
あ、そうか。
僕らの人生は、きっと信号が変わっただけだ。

だから行くよ。
さっきのはやっぱナシにしといてくれ。
僕は君で変わる。君に変わる。
だからもう、誰にも追いつけないところまで、一緒に行こう?
君となら行けるよ、そう思うから、赤信号になるまで走ってみよう。

montag / taxi