三鷹

 僕はついてない男だと思う。趣味の懸賞は生まれて15年一度も当たった事がないし
信号機はかなりの確率で赤信号だ。割りととどうでもいいところで運が悪い。
でも、さすがに告白してOKをもらったその次に月にその子が転校してしまったときには
自分の運の悪さを呪ったね。でもそれぐらいで僕達は別れる様な関係じゃない。
毎日、電話で連絡しているしメールだってやり取りしてる。彼女と話してる時間は本当に
楽しいんだ。ただ電話料金を親に怒られるのが難点だけどね。

 駅のホームで三鷹駅までの切符を買う。今日は3ヶ月ぶりに彼女に会いに行ける日だ。
転校してから初めて家に遊びに行く。僕の家からはバスと電車で1時間ぐらい。
そんなに遠くもないけれど中学生の僕が頻繁に通える距離でもない。
 駅からはもう快速電車にのれば20分ほどで彼女の家に着く。ひさしぶりに会える喜び
何を話そう? どんな顔で会おう? あった瞬間に抱きついたりしたらやっぱり怒られるだろうか?
いろいろな想像をめぐらせて電車に乗り込もうとして足が止まった。電車が出て行くのを見送る。
僕は快速電車に乗るのを止め各駅どまりの電車のホームへ向かった。
ゆっくりと進む電車、なんとなくすぐ彼女の家に着くのがもったいなかった。
嘘。本当は久しぶりに会うというと何を話していいかわからない。
電話と実際に会って話すのとではわけが違う。僕が彼女と楽しそうに話しているのを想像すると
なぜか違和感があった。この3ヶ月間で嫌いになられていたらどうしよう? 
そんな事ばかりが頭に浮かんだ。

 三鷹駅についてホームの階段を上がる。改札を出て人の少ないほう、商店街とは反対側の
南口を降りると歩いて10分ほどで彼女の家に着く。
とりあえず、コンビニで何か買っていこう。そう思って僕はジュースを買う。
バスロータリーまで降りてジュースを飲む。何をやってるんだ僕は。
彼女が僕のことを嫌いになんてなってるわけないじゃないか。そう自分に言い聞かせても
勇気が出ない。でも彼女に早く会いたいっていう気持ちだってある。
 とぼとぼと緑の葉っぱが生い茂っている桜並木の歩道を歩く。すっかり辺りは暗くなっていた。
こんな夜遅くになってしまったのは、休みの日にまで学校の仕事を頼まれていたからだった。
今夜は彼女の家に泊めてもらう予定だった。もちろん彼女と僕は別々の部屋だ。ちょっと残念。
そんなことを考えてしまった自分に苦笑いをして歩く速度を少しあげた。
大丈夫! 会えば楽しい時間が待ってる! そう自分に言い聞かせた。
「ちょっとやめてください!」
僕が一生懸命奮い立たせた勇気はその声でまたしぼんでしまった。
声のしたほうを見てみると、女の人が酔っ払いに絡まれているみたいだった。
「離して!」
女の人が激しく抵抗しているのを苦にもせず酔っ払いの男は腕をつかんでいる。
僕はすぐに近くの交番に走りこもうとした。それで警察の人に着てもらって
あの酔っ払いを取り押さえてもらう。それで万事解決だ。
その時、僕のポケットの中で携帯電話が震えた。メールが着信したのだ。
とっさに中を確認する。メールの内容は彼女から僕が遅れている事への心配と早く会いたい
という内容だった。そうだ、はやく彼女の家に行かなきゃ。
僕は地面を力強く蹴って走り出した。
そして酔っ払いの腰に思いっきり体当たりをかけた。

 気がつくと酔っ払いは騒ぎを聞きつけて駆けつけた警官に取り押さえられていた。
僕はボコボコに殴られて腫れている顔をそっと触る。激痛が走った。
「大丈夫かい?」
警官が僕に話しかけてきた。
「大丈夫です」
僕は笑って答える。結局僕は酔っ払いにボコボコにされただけだったけれどなんとなく
気分が良かった。
「あんまり無茶するんじゃないぞ」
警官は少したしなめるように言った。
「すいません」
僕はそういうと駆け出した。
「ちょっと待ちなさい!」
警官が叫ぶのを背に聞きながら僕は違う事を考えていた。
この腫れた顔をどうやってごまかそう? 転んだとでも言おうか?
きっと彼女は心配そうな顔をしながらそんなわけないじゃんとツッコんでくれるに違いない。

放濫亭 / 秀斗