おいしい研究所 伊達

彼女はいつも突発的。
そして意味が分からない。

件名:へんな春巻き
本文:なし

珍しくメールが来たと思うとコレだ。
きちんとモノゴトを順序だてて書いてよ、と、何度お願いしても変わらない。
ケータイメール打つのって苦手なんだもん、と一蹴される。
僕を困らせる事に変な使命感でもあるんじゃないかと、たまに本気で疑う。

「で、どうするの?」
メールじゃ拉致があかないので、電話をかけて尋ねてみた。
「打ち合わせが終わったら抜けられるから、2時間後に」
クスクス笑うような声と共に、プツッという音を響かせて電話は切れた。
ツーツーと、耳元にこだまする無機質な音。

彼女と僕の会話はいつもこんな感じ。
ね?同情したくなったでしょ?

携帯をポケットにしまうと、気を取り直してデスクに向かう。
2時間後に来るって事は、僕も2時間後に出れるようにしなくちゃならない。
今手掛けてる仕事はそんなに大きなプロジェクトじゃないから
確かに余裕で抜ける事は出来るんだけど。

確信犯だよなあ。

仕事をこなしながら「へんな春巻き」で検索をかける。
彼女の言う単語で検索すると、大抵はトップ記事で見つかる。
そこら辺は優しさなのか、偶然なのか微妙だけど。

2時間後、外に出た僕を見つけて手招きする彼女。
ここからだと総武線で2駅だね。
そう告げると彼女はニッコリと微笑んだ。

阿佐ヶ谷駅で電車を降りると、僕らは目的の居酒屋に向かった。
店に入ってオーダーをする時、僕は敢えて「へんな春巻き」を頼まなかった。
この後もまだ仕事の続く僕たちは、烏龍茶でヒッソリ乾杯した後
お店自慢の創作料理を食べながら、他愛ない話で盛り上がった。

ひとしきり笑いあった後。
新しいプロジェクトに入ったはずの彼女が、其の話を全くしない事に気付いた。
この間言ってた新しいプロジェクトの方はどうなの?
何気なく聞いたはずの一言だった。

彼女の顔色が、あっという間に変わった。

「実は、アノヒトの会社との合同プロジェクトなんだよね」
烏龍茶をぐいっと飲んで、彼女は泣き出しそうな笑顔でそう告げた。

「アノヒト」の話をする時の彼女の物憂げな表情は、何度見ても慣れない。
いつも見せる彼女とは違う、穏やかで切ない空気が一瞬にして彼女を包む。
そして彼女は、何かを封じ込めるような表情をして、ニッコリと笑うんだ。

彼女が僕に連絡をしてくる時は
誰かに傍にいて欲しい時。
自分の存在理由を見失った時。
どうしていいか、分からない時。

彼女が謎かけのような会話をする時は
相手が自分の事を考えてくれてる実感が欲しい時。
答えを探す相手を見て、そして安心するんだろう。
少しでもこの人は自分の事を考えてくれてると、そうやって安心するんだろう。

不器用で、残酷で、可哀想な彼女。

愛されてる事に関しては神がかり的に鈍感な君が
君を愛してる人が周りにたくさんいる事に
どうか早く気付きますように。

そう願いながら店員を捕まえて「へんな春巻き」をオーダーした。

stushy / 藤生アキラ