煙で書いた記号

黒のFCと煙草と排気音。
思い出すとしたらそれだけだった。
怠惰に貪った日々が、今になって蘇るなんて。

「 本当に何も考えてないでしょ 」
それは蔑みではなく、優しさでもなく
単純にツルリと吐き出されただけの言葉だった。

何のアテもなく、東京に出てきて1週間。
警戒も下心も無く迎え入れてくれた君と
なだらかな時間を共有した。



短 い 、 休 息 。



名前を付けてくれた君と
それを受け入れたアタシ。
ただそれだけの関係だった。



残 っ た も の は 、 焦 燥 感 。



全てを断ち切る覚悟がない以上
どうやったって別人にはなれないんだ。
アタシがアタシを覚えてる限り
どうやったって忘れられない。

黒のFCと煙草と排気音。
君を選んだのはそれだけだった。

車検に出したハチロクの代わりに
特別に貸してもらった代車と同じ。
アタシが吸うから真似して吸ってた
彼のお気に入りの煙草と同じ。

何も考えてないワケじゃないんだよ。
彼の存在があまりにも大きすぎて
他の事を考えてる余裕がないだけなんだ。

東京と彼は同じもので
彼と黒のFCは同じもの。
黒のFCと錦糸町は同じもので
錦糸町と彼は同じもの。

中野と錦糸町には降りられない。
もう総武線に乗る事も出来ない。

それでも東京から、出て行けない。

07 / NANA