ほろ苦い青春なのだ

僕は亀戸駅ビルのスタバ前で立っている。
現在、18時30分。
約束の時間は19時だからあと30分待ちだ。
こうなるとスタバにでも入っていれば良いのだが
スタバはタバコが吸えないので入らない。

・・・と言うのはタテマエでお金がないからだ。
そもそも僕はタバコを吸っていい年齢じゃないのだ。

・・・と言うのもタテマエで吸えないだけだ。
吸うのがカッコイイとは思わないけれど
待ち合わせの時なんかは手持ち無沙汰にならず
非常に便利なアイテムだ。
何度も吸おうと試みたのだがムセてしまって
どうにもこうにも吸えたもんじゃない。

だからと言うわけではないけど
これからやってくる彼女もタバコを吸わない子だ。

その子は高校に入ってスグに出来た彼女だ。
目立ちたがり屋の僕が体育祭のクラス対抗リレーで
ダッチワイフを肩車して走ったら大ウケしてくれた。
普通の女の子だったら引いてしまって話にならない。
カーブでワザと転んだ後にダッチワイフを抱き起こして
マウスツーマウスで人工呼吸をした時には
涙を流して笑ってくれていたらしい。

なんて回想してるうちに彼女がやってきた。
照れたフリをして眼をそらす。
ヤバイ。
直視できない。
ピンクのワンピースに包まれた細長い手足が眩しすぎる!
スレンダーという言葉がピッタリの彼女。
それでいてさっき話したようにシモネタにも食いつく。
これはもうエッチしちゃうしかないのだ!

駅から程近いルパンというビリヤード場がある。
本当は彼女をそこへ連れて行って僕のカッコ良さを見せつけたいのだが
あそこに行くと悪友たちがたむろしているのでやめにする。
あることないこと暴露されたらたまったもんじゃないからだ。

無難に亀戸天神にお参りに行くことにした。
手を繋いで一緒に歩く。
藤棚を指差して「季節になったらまた来よう」だなんて
カッコイイ事を言ってみたりしながら歩いた。

境内のベンチに座っていろいろと話した。
クラスの誰それがアイツの事が好きだとか
お嬢様ってウワサのあの子が実は非処女だとか。
彼女が一番興味を示した俺の話が重要だ。
タカハシが体育祭の後に彼女を連れて部室に行き
その場でエッチをしてしまったと言う話だ。

察しーてもいぃ~でーすかぁ~!
これはもうエッチしちゃうしかないのだ!

時計を見る。
気付かれないようにさりげなくだ。
もし彼女が時計を見てしまったら終わりだ。
まだ終電は残ってる。
あと少しだ。
頑張って引っ張るのだ。
終電さえ無くなれば女は言い訳が出来るから
ホテルに誘っても断らないと雑誌に載っていたのだ。

時が来た。
終電が無くなった。
チャンスとばかりに僕はさりげなく誘う。
僕のズボンはパンパンだ。

彼女はカタチだけの拒否を示した。
もうしょうがねーなー。
わかってるのにいちいち手順を踏まないとダメなのかー。
そゆとこもカワイイけどね!

うちに帰らなきゃ。
・・・と言うのはタテマエでエッチしたいんだ。
処女を捨てたいに違いない!

と、エロ丸出しで電車が終わっている事を告げると
「でもお迎えが来るから」
彼女はあっさりと言い放った。

自分が描いていたストーリーが破綻してしまうと
何も出来なくなる性質の僕はその後どうしたか覚えていない。

ただ彼女をお迎えに来たのが 父親じゃなかったことだけは
しっかりと覚えている。

これはもうダッチワイフしかないのだ。

青洞 / FOSSIL