繋がらない定期券
すごく暑くて後ろ髪が首筋にぺとりとまとわりついているような日。
僕の横にいる彼女は、風もないのになんだかさらさらと
髪の毛をなびかせベンチに座って目の前を見つめていた。
僕は、ずっとその姿を眺めている。
この駅は、隣の亀戸駅や新小岩駅にくらべると
圧倒的に乗車人数がすくなくてほんとに地味な感じだ。
遊びにいくとかそうい所もなくて、ここで降りる人たちは
まっすぐと家路につく。
僕はそんな人たちがなんとなくうらやましい。
僕はふたたびい彼女に目をやる。
彼女は、白っぽい服をきてベンチに座っている。
電車に乗る様子もなくぼーっと電車が来たり行ったりするのを
見ている。
僕はふらーっと彼女の近くによって見る。
視線は僕にあったりしない。
僕が近づいているのを気にする様子も無く前を眺めている。
突然彼女が涙を流した。
彼女は、何かをつぶやきながらまっすぐ眺めながら
ぽろりぽろりと涙を落とす。
僕は、そんなきれいな涙が落ちるのがなんだかもったいなくて
手をさしだす。
ふと、彼女と目があった様な気がした。
僕は、彼女を見つめる。
彼女は、僕を見つめている。
彼女の唇がそっと動く。
目を凝らして眺めてみる。
さ
よ
う
な
ら
僕は誰?
僕はなんでここにいるのだろう?
僕の帰るべきところはどこなのだろう?と思いながら
消えた。
私は、彼を見たような気がした。
ここにいれば、彼を見れるような気がした。
あの日も、なんだかスカートがまとわりつくような暑い日だった。
彼とは、この駅で最後にさようならを言って別れてた。
そして、いなくなってしまった。
どこにいってしまったのか誰もわからない。
でも、なんとなくこの駅にいるような気がした。
私の思いはずっとこの駅に繋がっていたから。
私はパンパンとスカートをはらってベンチをたった。
明日も、ここで会えるだろうか。
どこにも繋がらない定期券を取り出す。