新小岩

久しぶりにこの駅に降りた。

目的はタバコを吸いに降りただけだ。
あと、空が見たかった。

仕事で東の方へ出向いた帰りのことだった。

僕の実家はここから歩いても30分くらいのところ。
だからこの街へは何度も来た。幼い頃から。
この街には変に思い出がある。
高校時代に仲間と初めて入った飲み屋。
バイト先の先輩らに連れられて初めて行った風俗。

中学時代にはよく喧嘩をしにこの辺へ来た。
大好きだったおばあちゃんが入院し、死んだのもこの街だ。

そうか、ばあちゃん。元気かな?ああ、死んだんだった。
あの小学校1年生の時、僕は目の前に写る全てのものの最後を
想像して、脅えるようになったんだ。
今でも僕は、手のひらを見つめ続けると変な感覚に襲われる。
初めてその感覚に陥り、生きるっていったい何なんだって
パニックになったのはここ、新小岩だ。

そんなところを久々に通ったから僕は反射的に降りたのだろうか。

東からここへ向かう電車の中で見た、紫ともなんとも言えない朝焼けは
妙に絶望的で僕の気分を爽快にしてくれた。

かつての恋人は、この駅から僕の実家の正反対に向かったところに住んでいた。

だからこの街でよく待ち合わせ、この街で別れた。
最後の日もここで迎えた。
まるでホームの喫煙所でライターを貸し借りした二人のように
簡単に自然に別れた。

全く何も辛くなかったと言えば嘘になる。
でも、はじめから混乱と別れに満ちた恋だった。
そう思うようにした。

ばあちゃんの墓参りにでも行こうか。
あの日、ばあちゃんと語った夢は、もう遠いところに行ってしまったよ。
ごめん、人生で初めてのでっかい将来の約束を破る僕は、きっとクズだ。
僕は親父の後を継ぐ医者にはなれなかったよ。

会わす顔がないから墓参りはやめにしよう。いや、違うな。
きっとめんどくさいんだ。大体墓参りってのは死んだ人間の為のものじゃない。

そして今、僕の愛する君はここにいる。
中途半端に一生懸命で、東京のはじっこ。
そんな君の住むこの街は、夜になっても騒々しくて涙がこぼれるよ。

「何よりも大好きな人と仲良く楽しく過ごすよ」

ばあちゃんとした二つ目の約束。
それは守れる自分でありたい。
この街に住む何よりも大好きな人、僕のこの目が節穴でありませんように。
そしてこの道がどこまでも続きますように。
その道を、次の季節も僕らが歩けますように。

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