現実逃避

-- いつでもおいで

その言葉に従って2年、学校へ行く気がしない日は決まってこの603号室を訪れる。
江戸川を越えて。市川駅に到着する瞬間。
今日もまた諦めにも似た罪悪感がどっ、と胃壁を攀じ登ってきた。

どうでもいい、という感情はどんどん下降を続けて。
留まる術を持たない。
疑問詞が増える度に、終息していって。
考えて、立ち止まる毎に。可能性が潰されてゆくのが解る。

そして。

そんな思考の彼方此方で手を拱いているペシミズムを振り払うように。
ブラインドの隙間から射し込む煌きに、そっと優しさを重ねた。

眼を閉じると世界はオレンジに染まる。
制服が皺になるのも御構い無しに。大の字になって、天井を見上げた。

目蓋の血管が透けて、細胞を溶かして。ヒトはヒトと云う原型を捨てる。
エアコンの風が髪を揺らして、フローリングの床はひやりと心地いい。

早く、帰ってこないかな。

そんな期待はふわふわと消費されて、いつの間にかどうでも良くなっていた。
右手の中で温かくなった鍵を、そっと陽射しに掲げてみる。

今はまだ。やりたいことがあって何かをしたくない、のではなく。
ただ何もしたく、ない。

退屈に首を絞められる / 獅乃