還る場所

ナントカスーパーと毒々しいプリントをつけた袋に、
もうはちきれんばかしの食料品を詰めて、私はいつものように帰途に着く。
いいかげん、便利のいいスーパーのひとつやふたつできて欲しい物だ。

あと4日で切れる定期をポケットに準備すると、
聞きなれた駅員の声と、飽きるほど見る窓辺からの風景。


「もうすぐ着くんですけど、本当に降りるんですか?」


頭の中にそんな声が響く。
冗談じゃないわよ、疲れてるんだからさっさと此処へおろして頂戴。

疲れているときにかぎってくる声は、
この駅に着く直前にしかいつも聞こえない。
でもそれは当たり前。
単に降りるのが面倒なのだ。


南口の改札は、
最初こそ「ニュータウン」のイメージを強くさせたけれど、
通りなれたらそうでもない。

なんてことない、ただの駅。

そこは私の通っていた高校が、
馬鹿みたいに某立ちしている、
ただの表向きニュータウン。
私の生まれた年から建った駅に、
嘘っぱちのタイルを埋め込んだ仮面近代化駅。
そう、だからただの「表向きニュータウン」

でも嫌いってわけじゃない。

その仮面近代化の下には、
周りに高い建物が少ないから空が高い。

少し歩けばなつかしの八百屋なんてあるし、
高校時代から御用達のサンドイッチ屋さんは、
もうまるで二度と動かないような時間の流れ方をしている。


そんな裏腹が嫌いってわけじゃくて、実は少しお気に入り。


仕事から帰ってくるときの安心感。
人が少ない喜び。

懐かしい高校生達の他愛ないおしゃべり。


スーパーのふくろをにぎりかえして、
ふと駅を振り返る。



「変わっているのは彼方ですよ。」



くるくるとめまぐるしくかわる駅のデザインに、
私は自分の歳を重ねていたのかもしれない。





駅なんてたくさんあって、
私が少し気に入ってるのはその中の一つであって。

でもそれでいて思い出があるのは、
自分自身のせい。

思い出を作るのも自分自身だし、
それに何かを見出すのもきっと自分自身。





タクシーの音をBGMに、
美容院のチラシやどこぞのティッシュをポケットいっぱいに。
それはもううざったくなるほど。

でもそれ全部をひっくるめて、私にとってこの駅の匂い。
そして雰囲気。


誰だって持ってる、
きっとそこは「還る場所の入り口」



そこが私の東船橋略してヒガフナ。


私が還れる、そんな駅の匂い。

キャッチャー・イン・ザ・ライ / 蒼樹宇明