17歳と販売員の恋

「fickleは8月1日を持ちまして、営業を終了させて頂きました。
長らくのご愛顧ありがとうございました。
お近くの店舗は下記になりますのでどうぞご利用下さい。
津田沼パルコ店 ℡:047-****-****」

私はこの張り紙を見て、本気で死ぬかと思った。

実は私、羽鳥美咲、17歳はですね。
ありがちな事に販売員さんに恋なんかしちゃったりして
毎日のように通い詰めて常連になんてなっちゃって、
ママに泣かれても、椎名さんに会えればいいや、なんて
親不孝な事考えながら浮かれポンチ娘やってました。

その椎名さんって人がまたイイ男で、
痩せてるんだけど引き締まった体つきというか、
アレは絶対着やせしてるんだー!!なんて叫んで、
「美咲、アンタホントうるさいから!」なんて友達に迷惑がられて学校を終え、
ショッピングモールのエスカレーターをウキウキ昇って来たわけです。

そしたら何?どういう事?
「えいぎょうをしゅうりょうしました」ってなに?
椎名さん、昨日笑って接してくれてたのに、何も話してくれなかったし!

とにかく津田沼行って、椎名さんいなかったら泣いてやる!
落としたバックを抱えて、私は下りのエスカレーターを駆け下りた。

「駅員さん!津田沼ってどういけばいいの!!」
池袋駅に着いた私は、そういって駅員のおじさんに窓口越しに迫った。
「ちょ、ちょっと待って!お嬢ちゃん!」
前の人のお金を数えていたおじさんは、びっくりしてお金を取り落としそうになってた。
けど、私の方が一大事なんだから。
この恋、美咲にとって一生一大事なんだから!
「ええとね、外回りに乗って、秋葉原で総武線の千葉行きに乗り換えるんだよ」
とおじさんが教えてくれたので
今日買うはずだったカットソー分のお金を崩して、津田沼に向かう。

津田沼に1時間かけてガタゴト電車に揺られて到着して、パルコを探し当てて、
一階のインフォメーションのお姉さんに速攻でブランド名言って、
B館ってのの、一階に走って、私はショウウィンドウの似たお店を探した。

あった、フィックル!
いらっしゃいませーの声、その中に、懐かしい声。
パンツをたたんでる、椎名さん!!
駆け寄って、椎名さんの服をつかんで捕まえる。
「ぎゃー!椎名さん、椎名さん!!」
「み、美咲ちゃん?」
「椎名さん見つけた!椎名さん見つけたよぉ・・・。」
ボロボロ涙が出てきて、私はお店でわんわん泣いた。

さすがにお店で女子高生が大泣きするのはまずかったらしく。
椎名さんは即座に上司っぽい人に何か言うと、
「美咲ちゃん、ここじゃ目立つから、話できる所行こう。ね?」
と私の肩を抱いて、お店の外に向かって歩き出した。

椎名さんが連れて行ってくれたのは、同じ階のスタバだった。
椎名さんがソファの席に座らせてくれて、
私用にキャラメルマキアートをオーダーして持ってきてくれた。
嬉しい、大スキなの覚えててくれたんだ。
「美咲ちゃん、困るよ。お店で泣いたりしたら」
「ごめんなさい、でも椎名さんが教えてくれないから、
私、超必死で津田沼来たんだよ?」
「それも困る」
なんだか、いつもと違ってそっけない態度。
「君の好意は嬉しかったけど、ちょっと営業妨害だったんだよね」
「もしかして椎名さん迷惑だった?」
「はっきり言えばそうだね」
冷たい顔して椎名さんが足を組んだ。
ショック。椎名さん、笑顔だったから判らなかった。
「だからお店閉めちゃったの?ゴメンね、そんなに嫌だったなんて美咲しらなかったよ」
反省。あんまりアピールしすぎるのも良くない、と頭の中にメモ。
もう17なんだし、引く所は引いて、駆け引きなんてしちゃう?
「・・・美咲ちゃん、別にお店閉めたのは俺じゃないんだけど・・・」
私の顔の前で、椎名さんがひらひら手を振る。
「美咲、待ってるね。待つ女になる!」
「だから、ちょっと」
「いつか美咲の為に戻ってきてくれるよね?!」
その椎名さんの手を握って、
あ、初めて手触っちゃった。ラッキー☆
なんか椎名さんの手、震えてる。何でかな?
「だから、お前、人の話聞けーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
椎名さんが大声で叫んだと思ったら、
ほっぺたぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅってつねられて、めちゃくちゃ痛い思いをした。

「他のお客様に迷惑ですから」
って、スタバを追い出されて、二人で津田沼界隈をうろうろしてる。
なんか今日って、あっちこっち移動してばっかりだね。
ampmを発見して、その前に座り込んで、ここまで色々歩いた道を振り返ってみた。
「津田沼って、結構大きいんだね」
「俺もそれ思った。」
優しい口調をやめたらしい椎名さんが、ampmで買った煙草に、火をつけて言った。
椎名さんは電話の横に立ったまま煙を吐く。
そういえば煙草吸う椎名さん、初めて見ちゃった。
クラスメートが陰でコソコソ吸ってるの見た事あるけど、
やっぱり椎名さんとは、なんていうのかな、年期が違う?
煙草吸う姿が、様になってる。
口の悪い椎名さんも、なんかやっと身近になれたようで嬉しかった。
「椎名さん、こんなに長い事外に居て良いの?」
「いい訳ないだろ、お前の所為だ」
「ゴメンね」
「ほんっと、こんなバカにまとわりつかれて俺は不幸だ」
「バカでゴメンね、でも美咲の事キライにならないでね」
「アホか」
「美咲、アホでバカだけど、椎名さんの事大スキなの」
津田沼まで飛んで来ちゃったのは、
こんなにバカで、アホな真似するのは、この恋が本当だから。
初めてこんな気持ちになれたから。
そしたら、椎名さんが頭くしゃって撫でた。
「お前のスキなんて、後1年もすればなくなるよ」
「そんな事ない!」
私は立ち上がって、思いっきり否定した。
「そうだって。お前の年代の恋愛なんてそんなもんだよ」
「絶対ない!」
「こんな遠くなったし、熱も冷めるだろ?」
「マジありえない!だって、だってさ!椎名さんだって津田沼に通うんじゃん!
私だって、ここまで今日、来れたし!今までみたいに会えなくても、またここに通うよ!」
私はまた半泣きになりながら、この恋を守ろうとした。
椎名さんがチッって苦い顔して、いきなり私を抱きしめた。
椎名さんの腕の中。やっぱり椎名さんって着やせするタイプだったんだな、
なんて考えながら、顔が赤くなって、半泣きだった涙がどばって出て止まらなくなる。
「大、スキなの。どう、して、大スキじゃいけないの?」
「判った、判ったよ」
泣きながら訴える私の頭を、抱きしめたまま椎名さんが撫でてくれる。
優しい、大きな男の人の手。
「今の恋、大切にしちゃ、いけないの?」
「悪かった、俺が悪かったから泣くな」
椎名さんは困ったような声で、私の頭を撫で続けてくれた。
「ふぇぇぇぇん」
私は大スキな人の背中にしがみついてずいぶん長い事泣きました。
17だからって、高校生だからって、恋が本物じゃないなんて言わないで。
私、必死に恋してます。貴方の事がスキです。本当に、本当に。

そして数日が過ぎちゃったりして。
「美咲ー、アンタの携帯に、椎名さんから『死ね!』って入ってたわよー」
お風呂場の私に向かって、ママが叫ぶ。
携帯、見張っておいて貰ったんだ。
「嘘、マジで?返事来たー?超嬉しいー!!」
ローズのアロマオイルをたらしたバスタブに浸かって私は身もだえする。
ずっと私のありのままを伝えたくてメールしてたんだけど、
全然返事が返ってこないんだもん。心配しちゃった。
今日は「津田沼へ行きます!」ってメール沢山しといたんだ。
その準備で、こうしてゆっくりお風呂で女を磨いたりしてます。
津田沼まで時間がかかって、一回家に帰れないから毎回制服なのが嫌だけど、
また抱きしめてくれた時に、薔薇の香りがしたら「おっ?」って思うよね。

明日、また津田沼へ、椎名さんに会いに行きます。

monochrome / tomoakira