恋のABC

朝っぱらから電車を乗り継いで辿り着いた駅は稲毛駅。
一緒に来たのはサッカー部のアツシと帰宅部のヤスタカ。
決まったのは三日前の図書館裏だ。

「勉強ばっかじゃ息が詰まるって!」
「まあな」
「そりゃそーだ」
「そりゃこの時期に頑張らないとダメだけどよ!」
「ダメだな」
「最も大切な時期だ」
「同じ境遇をもう一年ばかり味わうハメにはなるけどよ!」
「で、なんなんだよ」
「結論から言えっての」
「海・・・行こうぜ?」

ヤスタカがそこまで力説する意味がわからなかったけど
俺とアツシはそれも悪くないな、ぐらいの判断で同意した。

ヤスタカは成績はいいのだけれど要領が悪い気がする。
試験に出る英単語とターゲット1900を右手と左手に持って
勉強は疲れた、海へ行こうと力説する男。
受験生じゃない人にもどこがツッコミどころかが
わかるように説明するとヤスタカが持っていた本は
両方とも英単語を覚える為だけの本なんだ。
ニ冊も必要ないし、ましてや同時に読むことなどしない。

ホントは夏期講習で知り合った女の子たちと
一緒にやって来てワイワイする予定だった。

の・だ・が。

俺たちが稲毛海岸へ行くと話したら途端に離れて行った。
江ノ島以外は海じゃないんだと。
あー、そーですか。
俺はうまく丸め込める自信があったのだが
アツシがキレちゃったもんだから全てパー。

それにしても
「江ノ島っていうか鬼が島が似合うクセしやがって」
なんて言い過ぎだよなあ。

駅から海岸まで向かうバスの車内でずっと
恋愛感情なんて勉強が手につかなくなる確率が第一位の
超やっかいなシロモノだとヤスタカはまたも力説していた。
ちなみに予想通りターゲット1900を持ってきていた。

海岸に着いてみて驚いた。
稲毛海岸なんて今まで一度も来たことがなかったので
実際の風景を目の当たりにするのは今回が初めてだった。

江ノ島は東東京に住む俺たちには遠い海だった。
親に連れられていく海は子供の頃だと
湘南方面よりも九十九里方面に行っていたぐらいだし。

そんなワケだから東東京から気軽に行ける海と言うだけで
稲毛海岸やるじゃん。知らなくてごめんな、と思っていた。

ところがいざ目にしてみるとなんだこの海岸は。
狭いし、造られた感の否めない人工浜だった。

それでもビキニがいっぱい歩いてるぞ!
とアツシが言ったので俺とヤスタカは持ち直した。

俺たちはしばらくの間、日焼けをする為に寝転んでいた。
最初に飽きて立ち上がったのはヤスタカだった。
ヤスタカは独りでナンパをしに行った。
俺とアツシは群れないと何も出来ないヘタレなので
一緒に行動することにした。もちろんナンパだ。

夜遊びを絶っていた俺とアツシは全然ダメだった。
面倒になって自分らのシートに戻るとヤスタカがいた。
正確にはヤスタカと水着の女の子が三人。

要領が悪いハズなのに不思議に思った俺は
女の子に聴こえないように手口をヤスタカに尋ねた。

「FINEのモデルだよね?って否定されても言い続けた」

なんだそりゃ。
けれど俺の中で凝り固まっていた何かが溶けた気がした。
楽しまなきゃ損だよな!

気がつくとヤスタカにはショートカットの女の子が
嬉しそうに寄り添っていた。
振り返るとアツシは巨乳の子と楽しげだ。
残った一人は・・・・・・


浜辺にふさわしくない透き通るような白い肌の女の子。
俺の方をじっと見つめていたかと思うとユウヘイのバッグから
何かを取り出してそれと俺とを交互に指差した。
ん?何だあれは?



ターゲット?

montag / ユウジ