西千葉

西千葉駅のそばに住んでる友達に、「家に遊びに来ないか」と誘われた。

西千葉は最寄りの千葉駅から一駅。
歩こうと思えば歩いていける距離だったが暑いので電車で行くことにする。

切符を買いホームで待っていると、ほどなくして電車がやってきた。



平日の昼間のせいか車両には自分一人。

「だいたい西千葉ってネーミングがおかしいんだよな」

気兼ねなく独り言も言える。

「千葉の西にあるから西千葉ってことなんだろうけど、
それを言ったら稲毛だって津田沼だって下総中山だって西千葉じゃないか」

屁理屈を言っている、と自分でも思うが止める人間は車内にはいない。

「すると車内アナウンスはこういう風になるのか。

“えー、次は西千葉ー西千葉です。
え、西千葉を出ますと西千葉、西千葉、西千葉、
終点西千葉の順で停車してまいります”

って俺の降りる駅はどれだよ!みたいなね」

どんどん加速してきた。

「すると巷では区別するために『眠らない街・西千葉』やら、
『最も千葉に近い西千葉』といった俗名が飛び交うに違いない。
そんな段階になって人間は気づく。
西千葉などと安易に名付けたのがそもそもの間違いだったのだ…、と」

堂々のフィナーレ。妄想もなかなか捨てたもんじゃない。

と、体が加速度を感じる。そろそろ着くらしい。


なんだかこの話をすぐにでも友人に話したくなってきた。

いてもたってもいられない。

ドアが開くまでがもどかしい。

ドアが開くなりホームへ飛び出す。

そんな僕を出迎えてくれた『稲毛』の二文字。





稲毛?


状況を理解するまでに数秒を要した。


「そっか、快速だったんだ…今の」


想像を逞しくしていたので気づかなかった。

各駅で西千葉に戻らなきゃ。



…いや、気が変わった。


「稲毛も、ある意味西千葉だしな」


そう呟くと、改札を抜け西千葉へ歩き出した。






30分後。

「あー、もしもし?オレオレ。道に迷っちゃったから迎えにきてくんない?」

いいんじゃない? / Lipt