千葉

 「じゃぁ、待ち合わせはいつものとこね。」
 何事もなかったかのように、彼女は言った
本当に何事もなかったように、電話の向こうで。

 彼女と待ち合わせをするのはいつだって同じ場所、
駅前にある二つ並んだポストの前。なんでかって、そこは僕が彼女に逢った場所だから。
暑い暑い夏の日に、美しい花火が舞った夜に。

 「ごめんっ!待った?」彼女の声。
 「おっそいよ・・・、45分遅刻・・・。帰ろうかと思ったよ。」
 「マジごめん! でもね・・・はい、これ。」
 彼女は僕に小さな箱を手渡す。はて、今日は何の日だっただろうか。誕生日?
いや、違うだろ。僕の誕生日は先月終わったばかりで彼女の誕生日は2ヶ月も先だ。
第一渡す方が誕生日じゃ話にならない。
 「ん・・・開けていいの?」と僕。
 「そりゃー開けていいでしょー、キミに持ってきたんだから。」
 「あ、そなの?ぢゃ、ありがたく・・・と、」
 嬉しそうに笑う彼女、プレゼントの包装をきれいにはがし、中を見た僕はちょっと
驚いた。中身は、よく言うドッグタグ。
 「キミはよく落し物や忘れ物をするからね、これならなくさないでしょ?っていうかなくしたら怒るよ?」
 「あ・・・うん、で、なぜにこれを?つか今日何の日だっけか??」
 「あー、一応、誕生日プレゼント、キミの誕生日より後にあたしたち付き合い始めたから、キミの誕生日先月だったでしょ?だから。」
 「ぇ・・・マジで?さんきゅう、ぅっわー、なんかすっげー嬉しい。ぉ、よく見たらこのタグちょっと違うね、書いてあることは同じだけど。」
 「おー、よく気づいたね。一枚はキミの名前が先、もう一枚はあたしの名前が先。
・・・つまり、こういうことだよ。」
彼女はTシャツの内側からタグを取り出した。
 「なるほどね・・・そゆ事か。」

 ドッグタグは2枚で1セットになっている、要するに彼女は僕のタグと1枚づつ交換したのだ、ま、本来の使い方とはちょっと違うがこんな平和が平和を謳歌してる日本でドッグタグ本来の意味を成すこともないだろう。

 「さんきゅ、これは無くさないように・・・努力する。」
 「絶対だよっ!」
 そう言って静かに、彼女は笑ったんだ・・・。
何も、何一つ、語らずに。

 1週間後、彼女は交通事故に遭い、あっけなく死んでしまった。
待ち合わせの場所、千葉駅の、二つ並んだポストの前。僕らが初めて出会った場所。
僕らが最後に言葉を交わした場所。

 「待ち合わせは・・・いつものところねっ!」

蒼色青空白い雪 / 蒼色サヴァン