夜明け前1時間、ぼんやりとキミを想う……

夜明け前1時間、ぼんやりとキミを想う。
忘れられない過去と、夜の匂い。
薄闇に染まる空を見つめながら、儚い想いを振り返る。
……記憶にあるのは、鮮やかな笑顔。
……ベッドに残された、キミの体温。
淡いセピアで彩られた、泣きたいくらいに懐かしい情景。
キミを想うだけで頑張れたあの頃、セカイは眩しく明日は輝いていた。
微熱のように支配する愛情に、シアワセというコトバの意味を知った。

――永遠を、信じた。

だけど今、ボクの隣にキミはなく。
ただ静謐な闇だけが広がっている。
遠くから響く、かけっ放しの音楽と、動くモノのない部屋の中。
……変わることのない現実、還ることのできない過去。
夜はやがて終わりを告げ、穏やかな朝を迎える。

夜明け前1時間、ぼんやりとキミを想う。
満ち足りた思いは完結することなく胸に残り、夜と共に甦る。
……ああ、セカイはこんなにも脆くクダラナイ。
無気力な自分を、やるせない想いを包み込んで、ひたすらに朝の訪れを待つ。
朝になれば、イヤでも現実に立ち向かわなければならない。
生きるために、笑うために、心に仮面を貼りつけて。

――そして、また眠れない夜がやって来る。

どれだけの朝を迎えれば、キミを忘れるコトができるのだろう。
どれだけの夜を迎えれば、キミを忘れるコトができるのだろう。
こぼれ落ちる砂のように愛は流れ、想いはカタチを失い、永遠を願う。
答えの出ないまま、窓から差し込む一筋の光。
朝を迎える……。

えす・ますたべの城 / 高嶺俊