forget me nots

身支度を整えて、私は彼のほうを向いて腕を開いた
「ねえぎゅっとして」
彼は腕に力を入れて私を抱きしめてくれた。
彼の腕の力が緩んだ瞬間、私は咄嗟に言った

「お願いあと12分だけ、あと12分で22時になるから。
だから、それまでこうしていて。」


22時になるまで、お願いだから。私は祈るような気持ちだった。
「わかったよ」そう言って、困ったような笑顔で君は私の頭を撫でた。


ずっと前から決めていた、もう終わりにする。
あと12分後が私たちのタイムリミット。私の中で勝手に決めた期限。
今日の昼、最後の荷物を部屋から運び出した、全てを終わりにするために。



「本当は大好きだったんだよ」そう言ってしまえば
きっと「知ってる」って言われるに決まっている。
どんなに、取り繕ったって嘯いたって、私の本音は私の行動から伝わっている。

伝えたいと思う気持ちと、知られたくないと思う気持ちとが
いつも私の言動を不安定にさせていた。
どうしたら上手く誤魔化せるんだろうと悩み、気づいて欲しくて悲しくなった。
好きだと言えばいいのに、言えないなら演じ切ればいいのに。
そんな気持ちを行ったり来たりした。そして、最終的に全てから逃げる事を選んだ。



君の気持ちを知りたかった、伝えて欲しかった。
終わりでも、現状維持でも、始まりでも結果なんてどうでも良かった。
君の中の私の形を知りたかった、どんな形でどんな重さだったのか。
自分勝手な感情なのは良く解ってる。でも、彼に確認する方法が解らないから。
決め付ける以外に方法がないから。
きっと私と連絡が取れなくなっても彼は私を探さないだろうし、きっとそんなに悲しくもないよね。
この人の心に少しの痛みも残さない、それが私の価値。


君の体温の中で私はつぶやいた
大好き。
終わりを決めて素直にそう言えた。

おいしい日々 / 和。