イチハチサンロク

聞こえているかい?

「もうすぐそこだよ。」

「さぁ、こっちへおいで。」

ほら、君を呼んでる声。

聞こえているかい?



-ゼロ-


緑、風、ゆるい日光。

穏やかな午後。

幸せも不幸せも半分ずつ。

平和だ。

そう

穏やかな午後。



ふいに音。

「リン」



鈴の音のような音。

振り返り探す。

でも音の主は無く。



「リン」



再び音。

目を閉じて聞き入る。

そして目を開けた。

「来るんだね?」






-イチ-



浮ついた心。

はしゃぎたくなる衝動。

じっと押さえる。

扉を開ける。

不安な顔、声、涙。

抱きしめて。

ゆっくりと撫でて。

ゆっくり息を吸う。

そして

ゆっくり息を吐く。

二度三度繰り返す。



「ありがとう。」






-ゴ-


踏み出した一歩。

振り返る。

そこに

あの日の午後。

平和な午後。

今は無い。

戻れないと知りながら

この一歩を踏み出した。

空を見上げる。

妙に高く薄蒼い空。

目を閉じる。

耳を済ませる。



「リン」



目を開ける。

そっと

呟いた。



「もう来るんだね?」






-キュウ-


「連絡するから。」

観念したような顔。

でもちらつかせる不安。

抱きしめようとして

「大丈夫だから。」

その言葉に踏みとどまる。

扉を開ける。

空を見上げると

緩い日光が降り注いだ。



「リン」



いつもより強く鳴る。

そうか

「来たんだね?」






-マイナスイチ-


「嫌だ、嫌いだ。」

「なぜ私は生きていかなければならないの?」

「私はこんなに汚れているのに」

「私は生きたくないのに」

「嫌だ、嫌いだ、嫌いだ」

「自分なんて」



抱きしめて。

ゆっくりと撫でて。

ゆっくり息を吸う。

そして

ゆっくり息を吐く。

二度三度繰り返す。



でも言葉は出なかった。



生きていけるように。

生きたいと願えるように。

生きなければならないように。



歪んだ感情。

愛情。

そして行動へ。






-ジュウニ-


「大丈夫だから」

「でも、なるべく早くね」

日が高い。

電車、その後歩く。

扉を開けた。

静かな場所。

手早く準備をする。

また

扉を開けた。

緑、風、ゆるい日光。

穏やかな午後。

でもどこかが違う。

空は薄蒼い。






-ジュウゴ-


明るい道。

涼やかな風をすり抜けた。

到着。

いや到達か。

レンガ色の扉を開ける。

安堵した顔。

駆け寄って。

手を握り、語りかける。

ここからが始まり。






-ニジュウヨン-


月。

潮の満ち引き。

それを望む。

望みすぎて

また

望むしかなく。

苦しみ。

叫び。

耳を通して

握られた腕を通して

この目を通して

様々なモノが見えた。

あの音が聞こえない。

耳を澄ますこともままならず

ただ満ちる時を待つ。

静かな願い。

夜は静けさを増した。






-ニジュウキュウ-


すべてを奪われた。

残るものもなく

ただ

そこに崩れかけた。

終わりを願う。

ただ、ただ

終わりを願っていた。



ふいに音。

「リン」



目は開いていた。

でも

目が覚めた。

何も残っていない。

そう

思っていた。

そう

思い込んでいた。

耳を澄ます。

「来てるんだね?」






-サンジュウサン-


満ちるわけでもなく

待ち望んでいた。

いや

待ち望んだのは

こちらではない。

耳を澄ます。

「リン」

と聞こえなかった。

でも

聞こえていた。

終わりと始まり。

そこにはソレがあった。






-ゼロテンイチ-


「もうすぐそこだよ。」

「さぁ、こっちへおいで。」



聞こえているかい?

「もうすぐそこだよ。」

「さぁ、こっちへおいで。」

ほら、君を呼んでる声。

聞こえているかい?



「リン」



音は突然変わった。

高く、高く響いた。

心の中から聞こえた。

それは

音ではなく

声。





「来たよ」





言葉は無く。

ただ涙が溢れ出た。

POSITISM / しのめん