ゆうやけちぇるしぃ

「リョウちゃん?」
偶然会ったのは、橋の直前。
山の端は少し紅く
うろこ雲が群れを成す

「なんだよ」
「今帰り?」
「・・・・・タカオの家でゲーム」
「そか」

赤と黒のランドセルもあと少し。
冬に向かう空に白い息。

「おまえさぁ、学校でそう呼ぶの止めろっていっただろ?」
「うーん、でもさぁ、言っちゃうんだもん」
「言うなよ!」
「・・・・うーん、判った。」

直線的な、橋。

「リョウちゃん」
「・・・・次言ったら無視」
「・・・・・・・・タカハシくん。」
「ん?」
 
橋の欄干はざらっとして冷たくて

「魚、いなくなっちゃったね 
  ・・・・・昔はいっぱいいたのに。」
「もうこの川も汚いしな」
「昔の方が良かったなぁ」
「そうか?俺は今の方がいいなぁ。
  この橋も出来たしさ。」


「みんな、昔の事なんか忘れちゃうんだよね、どんどん」
「・・・・・・・・」
「明日になったらさ、この空も忘れちゃうんだろうね。」


『・・・・・・・・・・・・・』

見上げるとやっぱりうろこ雲
青から赤へのグラデーションは
刻一刻と姿を変えて
赤から紫へ
朱から紺へ


「でもさ、
 忘れたくないって思ったことは忘れないと思うぜ」
「・・・」
「カケラでも、覚えてりゃそれでいいじゃん!

 チャイムなったし、帰るぞ!!」


見下ろした川には魚はいない
目の前の景色は変わったかもしれない
これからどうなるかなんてわからない


「リョウちゃん!」
「なんだよ。」
「手、つないで帰ろ。」
「は!?なに言ってんだよ」

「ほら、“お手手つないでみな帰ろ”ってチャイムも言ってるじゃん」
「は!?ふざけんな!!!」


目を閉じれば、君と過ごした季節は甦る。

sora