果てる先

暗い暗い闇の中
私は微かなペンライトの明かりを頼りに歩いていた
時折風に揺れる木々の音があるだけの世界
月も無く星も無く
唯々私だけがある闇の世界
縫う様に木々の合間を彷徨うように歩き
今の私を思い返し
私は唯々黙々と歩く
思えばくだらない生き様だった
唯の紙切れに振り回され
其れのために生き
其れのために逝く
静かな闇の中私は自嘲の笑みを漏らす
思えば唯の紙切れか・・・・・
発せられた言葉は闇に溶け
私は更に先を目指す
開放だろうか
終焉だろうか
静かな闇は私に自問自答だけを与え
唯必死で生きてきた己の愚かさを浮き彫りにする
限りある時間か・・・・・
確かに無駄に生きてきたな
そう今思えば無駄だったよ・・・
何を何処で間違ったのだろうな・・・
シャツのボタンと同じか
気付かなければずれたままってやつか
自分を笑うか・・・・それもココの魔力なんだろうか
捨て行く自分という道
その通過点なのだろうか
私はふと足を止め煙草を探る
火を点し大きくゆっくりと紫煙を肺にいれ
ゆっくりと大きく吐き出す
そういえば幾分と吸っていなかったな・・・
本当に切羽つまるとそれすら忘れるらしい
懐かしい煙草の味が少しだけ心を落ち着ける
ん??・・・・・・
落ち着いた私の眼に微かな光の揺らめきが映る
先客なのであろうか?
それはそれで少し都合が悪いのだが・・・
少し興味に駆られ光の方向に足を向ける
光まで後少しとなった時
私は光に包まれた
夜の闇がいきなり光に包まれたらこうなるのであろうか?
私の立つ僅かな空間だけが昼の其れとなっている
何かに覚悟を決めた人間は強いらしい
本来であるならば我を忘れるであろう現実すら
私は受け入れているらしかった
異様としか思えない空間
そこに在る人には見えないモノ
人生の最後にこんなモノに会えるか・・・
喰らうモノであったとしても手間が省ける
などとくだらないことを考えつつそのモノに近づく
「言っとくが わしゃ人など喰らわぬよ」
後数歩と近づいたところでソレは声を発した
毛だらけの腕で薄汚れた着物らしきものの胸元より
古びた煙管を出しつつソレは確かに声を発した
私は立ち止まり咥えていた煙草を足元に放り踏み消し
いやに醒めた頭に思い浮かんだ言葉を口にしようとした
「そうさな 人間にはサトリなどと呼ばれているな」
それよりも前にソレは答える
闇のように深い瞳を持ち
大きく裂けた口をもつソレは
「長く生き多くに会ったが
いわゆる死を望む人間とやらは時々恐れを忘れるものじゃな
まー座るが良い ちっと爺と話などせぬか?」
ソレは煙管で己が前を指し
不気味にしか見えないはずが優しげに見える顔で私を促す
では失礼します
私は言いつつ2本目の煙草に手を伸ばす
2人分の紫煙が森の木々を縫うように昇る
「話と言うてもなんじゃな
思いが記憶が伝わるのも味気ないものだのぉ
生きていられぬほどの失敗か・・・
人間とやらはほんに不思議なものよ」
私には人あらざるモノの生きかたはわからないが
人間とはそんなものだ
くだらない紙に生きた私にはすくなくともね
ゆっくりと煙を吐きつつ答える
「無念という思いか
わしゃなここの管理をしとるのじゃがな
念を持って死ぬものが多すぎてな
ここ本来の気が揺らいでおる
それで老婆心ながらに止める役目でな」
諭すような瞳
私はココに果てるために来た
例え戻ったとしても戻ることはできない
私は全てを失い全てに捨てられたのだ
吐き捨てるように思いが爆ぜる
「ふーむ・・・・・」
ソレは背後から1つの袋を取り出す
「こんなモノのためにかね?
ただの紙切れなんであろう?
モノは裏切らんよ自分がソレを裏切らないかぎりな」
ソレの取り出した袋の中には
大量の人生を狂わせた紙が入っていた
「正直だの心は
これがあればやり直せるか?
自分を捨てたものを取り返せるのか?」
そうだ・・・・これだけあれば
私は生きられる
私を捨てたモノを見返すことができる・・・・
「人間とやらの額面にして
まー10億ほどといったものかの」
底のない深い深い瞳が私を捕らえ
値踏みするかのように凝視される
「まぁなんだ
人間という生き物は力もなく弱い
そのくせやたらと念が強くてな
おんしのように深い念は死してなお強かろう
その念を昇華させるはちっと難儀じゃ
それにワシを見て驚かぬ決意と
今時にしては珍しく
このような時を
草木も眠る人外の時を選んだぬしに今一度
機会を与えるも一興かの」
それは袋を私の目の前にどんと置き
ニヤリと笑みを浮かべた
なるほど死なれては面倒だ
この紙は不要だから持って行って生きてみろといったところか
くくくっ
自然と笑みがこぼれる
これがあれば奴等を
私を捨てた奴らを・・・・・・・・・
「まぁやってみるがよいわ
ココは人外の地
出口まで案内をつけるゆえ行くがよかろう」
ソレが指を鳴らすと2つの人魂であろうか
ふわりふわりと浮かぶ火玉が現れる
私はそれに導かれ進みはじめた
私を捨て私を裏切ったあの場所に・・・・・

   *   *   *

3年の時が流れたあの森に
サトリと呼ばれるモノはいた
1本の大木に寄りかかり
古びた煙管をふかしながら
その木の太い太い枝からは
生きた証を垂れ流す
かつて人でありしものが
揺ら揺らと唯揺ら揺らと
念を残し揺れるのみ・・・・・
「人という生き物はほんに愚かよな
己が間違いすらも他に振るかよ
変わらぬ者に変化など無かろうに
変わらぬから人か
変わらぬから我等か
それでも見守るしかないのだが
まぁよいゆるりゆるりと始めるか
不念の旅路をあないするか」
深い闇の瞳を閉る
森の木々がやさしく揺れるその場所で

夢工房夢月堂 / 姫新翔