RE:write







Disk:A 「 RE: 」

今日もしとしと雨が降る。
淀んだ空と濁ったワタシ。
繰り返される日常は怠惰な空気を垂れ流して。

Re:ねぇ。

ごめん、今日も無理。
また明日連絡するから
ちゃんとイイコで寝てろよ。

簡潔な空振り返信。
逢いたい時はいつだって。
タイトルをそのままで返されるの、嫌いだって言ってるのに。
何度言っても覚えてなんてくれない。

不毛な恋だと人は言う。
どちらにもいい結果を生まない恋だって。
じゃあ不毛じゃない恋ってどんなのなんだろう。

携帯電話をパチンと閉じて、さっきより薄暗くなった外に目を向ける。
秋ももう終りに近付いて、日が暮れるのが少しずつ早くなった。

夜をヒトリで過ごすのが嫌い。
夕方から明け方なんて時間、無くなってしまえばいい。

眠れない。
食べれない。
気持ち悪い。
繰り返しては、朝が来る。

──強くなりたい。

閉じた携帯電話をもう1度開いて、2通のメールを送った。
1通は友達へ。もう1通は大好きなアノヒトへ。
最後の愛を、めいいっぱい込めて。

サヨナラのメールを打ちながら、哀しくて泣いた。
直接逢ってのサヨナラなんか出来るはずがない。
それはワタシも、そしてアノヒトも十分知ってた。
何度別れて、何度逢ってしまったんだろう。
どうして分かってて繰り返してしまうんだろう。

恋じゃないなんて、言われなくても知ってた。
ワタシはアノヒトが好きで好きでどうしようもなかったけど
アノヒトはワタシを好きなんかじゃない。

・・好きなんかじゃないんだ。

友達へのメールを送信した後、シャワーを浴びて着替えを始める。
どんなに忙しくても、いつだって時間を空けてくれる人。
どんなにブルーになってても、彼と会ってると考えなくて済む。
弱音を吐くわけじゃなく、弱音を聞き出してくれるわけじゃなく
その空気と存在だけで、全てを暖かく包んでくれる人。

彼に、逢いたい。


Disk:B 「 write 」


フラリと現れた彼女は、相変わらず哀しくなる位の笑顔で。
いつもの店で他愛ない会話。
彼女の心はここにない。

「ごめんね、いきなり呼び出して」
軽いカクテルで乾杯をした後、ニッコリ笑ってそう切り出す。
うっすら赤く充血した瞳と少しだけ濃い目のメイク。
強くなる事に必死な彼女に、それを言い出す事は出来なくて。

「全くだよ。コッチは納期前でピリピリしてるってのに」
軽い憎まれ口を叩きながら、飲んでるカクテルのグラスを押し上げて小さな悪戯。
慌ててグラスを持ち直し、グラスにクチをつけたまま軽く睨む彼女。
どうやっても、その仕草ひとつひとつに勝てるわけが無い。

彼女は不毛な恋をしている。
不毛と一言で言ってしまうには、あまりに透明で、あまりに哀しい
夜空に輝く星を手に入れたくて、必死に手を伸ばすような純粋で幼い恋。
僕はそんな彼女に3年以上も片思いし続け、それを言う事さえも出来ない愚か者。

「どうしたの?」
彼女が問う。
「ソッチこそどうしたんだよ」
言った瞬間に後悔。

思った通りに目を伏せて、お箸を置くと黙り込む。
言わないように、ずっと細心の注意を払っていた言葉。
瞬間的に計算を始めた僕の思考を阻むかのように、彼女はポツリと言った。

「もう終わったの」

今度は僕がビックリしてお箸を取り落とす番だ。
お箸どころか勢いあまって叫びだしそうになった。
でも表面上は態度を変えず 「そうなんだ?」 って言うのが精一杯。

淋しい時には決まって電話をくれるけど
「淋しい」 をクチに出すのが苦手な彼女だから、僕はいつも気付かないフリをしてた。
何も突っ込まずに、ただ笑って、小馬鹿にしあって、そうして帰るのがいつもの事だった。
僕もいつも何も聞かないし、彼女もいつも何も言わなかったから。

「じゃあ俺と付き合うとかどうよ?」
淋しい気持ちに付け込む気はさらさら無かったけど、ついクチから滑り落ちた台詞。
予想通り、彼女の瞳はまんまるく見開かれてる。
後頭部を叩くとポロっと零れ落ちそうなくらい大きい瞳に、つい吹き出して笑う。
「す、すごいビックリしたのに笑うとか酷いよ!」
ああもう、怒った顔も可愛いってまさにこの事だな。
そう思うと可笑しくて、込み上げてくる笑いは留まる事を知らない。
彼女は憤慨したカオで軽くコッチを睨みつける。

強く、強くなろうとしてる彼女。
ヒトリで強くなろうとするからダメだって事に気付かせてあげる。
僕といる時だけは精一杯甘やかしてあげるから、その分強くなればいい。
安心して帰ってこれる場所をあげるから、君は自由に羽ばたけばいい。

この笑いがおさまったら改めて告白しなおすから、今はそのままで待ってて。
思い続けてきた3年分の代償はシッカリ貰ってあげるから。
君の好きな 「アノヒト」 の情報量を超えるくらい、僕情報を君に書き込んでやる。


Disk:Unknown 「 rewrite 」


理由もなく哀しくて泣き出した。
フラれたとかフったとか、そんなレベルの話じゃなくて。
淋しい気持ちを認めて乗り越える事で、きっと人は強くなれる。
進もうとする事は、決して無駄なんかじゃない。

──君を成す原動力

利己主義な世間に疲れ果てたり
ライトぶった恋愛方式がオトナなんだと勘違いしたりで
胃痛と戦いながら精一杯で頑張って、涙する日もきっとある。
とにかく僕の全てで君を守るから。

──全身全霊をくれよ

07 / NANA + stushy / 藤生アキラ