何と言う

朝のHR開始のベルが鳴った。

今日も君は学校に姿を見せない。いつもなら僕よりも早く来ていて、熱心に携帯をいじっているのに、前から2列目、廊下側の席はもう一週間空いたまんまだ。
他の机にもいくつか空いたのがあったり、急に寒くなったから長引く風邪が流行っているなんて話があったり、そういう話から、君も風邪なのかな、なんて仮説を立ててみることはできる。

できるんだけど、それでは何も満足なことはなくて。

君がどうして学校にこないのか、気になるし、
それに、何よりも、
ああ、君に会いたいなあ。

いつも彼女が仲良くしている女の子たちに、聞いてみれば君がどうしているのかわかるかもしれない。だけれども、多分それでも僕は満足できなくて。

だって聞いてみたところで、返ってくる可能性があるのは
(1) 彼女に関する僕の立てたような仮説
(2) 彼女からメールででも聞いた詳しい事情
(3) 「あいつ彼女のこと好きなのかなぁ」という蔑笑と無視

どうせ返ってくるのは(3)だろうし。女の子ってそういう生き物だと思う。彼女はもちろん別だけど。きっと…別だけど。
でも(1)や(2)の答えが返ってきたところで、そんなものは、不確かなものに過ぎないし。彼女の友達を通した時点で、もうその情報は彼女自身を伝えてはくれないからなあ――

ああ、君に会いたいなあ。




ちょっと気取って、花なんて持っていくのは恥ずかしいから、いたって普通の感じで、連絡帳なんか持ってさ、あ、これじゃ小学生じゃんハハハ、ともかくもそれでだ、君の家を訪ねてみる。「お見舞いにきました」って。そしてもしかしたら君がいつも寝ている自室に通してもらって、でも実は君は目を覚ましていて、でもやっぱり風邪をひいてるからぼんやりしてて、
そこで僕は、彼女に向かって…




…言えるわけない!
どんなにそう思ったって言えるわけない!
第一、彼女の家に出向けるわけがない!
第一、僕は、彼女の家を…、知らない。

ああ、君に会いたいなあ。

あしたになったら、
あさってになったら、
しあさってになったら、
また、学校にくるかなあ?

いや絶対くる。くるよ。
……。




きちゃったよ!
どうしよう。

少し痩せたような君の姿を遠目に見て、僕は多分ホッとするんだろうなあ。でもしばらくは緊張して彼女に話し掛けられるわけもなくて。それで、3時間目と4時間目の休み時間のあいだぐらいに、偶然を装って彼女と廊下ですれ違って…




…言えるわけない!
どんなにそう思ったって、
どんなに顔に出てたって、
どんなに体が震えたって、
どんなに些細な言葉でも、

……、
「うれしいです」

なんて、
言えるわけない。

それでも、
ああ、君に会いたいなあ。

なんて考えていると、朝のHR終了のベルが鳴って、その直後突然に
ガラリ、と教室の前の扉が開いた。

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