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equal

 サナエが失恋した。



 相手は同じサークルの先輩で、告白する前によりによって同じサークル内で彼女が出来て思いも伝えられないまま恋は終わったらしい。言えないまま終わった恋は消化できずに胸の内で燻って、焦げて苦い後味が残るだろう。わたしが、気まずくなるのが嫌だと言って告白しなかったサナエよりも、それでも告った彼女のほうが勇気が合ったということだと思ったのは言わない。サナエも彼女も周りを取り巻く条件はイコールだったと思うから。



 酎ハイやカクテルの缶が空いて、そこらに散らばっている。サナエと、わたしと、同じ科の友達数人が、ソファやらベッドの上やらでアルコールに口をつけている。ついさっき、日を越えたところだ。一人暮らしっていいなと、場に似合わないことばかり考えてしまう。



「あの子よりサナエのほうが可愛いのにね」

「サナエかわいそー」



 みんなは本当はどう思ってるか分からないけれど、お決まりの言葉を連ねている。わたしも結局はみんなと同じような言葉しか出てこないだろうから、口を噤んでいた。サナエは酒には強い女だというのにいきなり泣き出して、つられてサナエの両側に座っていたふたりが泣き出した。



 サークルに行くのが辛い、泣きそうになる、と泣きながら言う。じゃあ休んじゃえばいいじゃないと言うと、だけど休んだら負けだから行く、とまた泣きながら返す。さっきからこれの繰り返しで、そろそろ疲れてきたからじゃあ頑張ってといって切った。それから新発売らしい酎ハイを流し込む。やっぱりわたし、お酒の味は好きじゃない。



 負けないって、誰に負けないっていうことだろう。自分に、彼女に、彼に。逃げることは、何もしないことは、いけないことなのだろうか。何もしないことが答えのときもあるんじゃないの。何もせずに、ゼロのままで、ゆったりと身体を、心を休めて、それがあなたの全てになり得るんじゃないの。わたしはそうあることを願っているのに。



 ゼロが全てに成るときもある。全てがゼロに返るときもある。ときにはゼロもひとつの手になる。不思議な数式。



 彼と彼女の気持ちと、サナエの気持ちが重なりあって絡まりあって、切なくも色とりどりの世界をつくった。イコールで繋がっているその世界を、胸の内に秘めて。



 もうひとくちだけ、マスカットの味のする酎ハイを飲んで、小さな子どものように泣く彼女の髪を、小さな子どもにするようにそっと撫でた。

ricca / ミオ