ちっちゃな前ならえ

ソウは小さな男の子だった。
小学校のときは一番前で、前ならえじゃなく横へならえを
させられていた。
カコも小さな女の子だった。
けれどもソウよりかは2cmぐらい大きくて
ソウの後ろで前ならえをしていた。
カコはソウの背中にいたずらして触ったりつついてみたりして
よろこんでいた。

ソウはそれを嫌がるように肩をくねらせる仕草をした。
カコはそれが楽しくて何度も何度もしていたら
そのうち、ソウに嫌われてしまった。

教室ではソウはカコに目を合わせない。
カコはソウに何度も謝ろうとしたがタイミングが
上手にとれなくて謝ることができなかった。

そのまま、1年二人の関係が好転することもなく過ぎてしまった。
すると、ソウの身長が伸びてカコより大きくなった。
カコが横へならえ
ソウが前ならえ。
逆転。

カコはソウの手が自分の背中をさわってくるのではないかと
ドキドキしながら朝礼の前の時間をすごした。
しかし、ソウの手はカコの背中に届くことはなかった。
もうカコの思いをソウに届くことはないのだとカコは悟る。

そうして、二人は小学校を卒業していった。
そうして、二人は別々の中学校に入った。前ならへをすることも
もうなくなった。

ソウはカコのことが嫌いだった。
カコはソウのことが好きだった。
ソウはカコのことを思い出すことはなかったが、
カコはソウのことをたまに思い出した。

今度の春、二人は同じ高校にすすむことになった。
二人はおなじクラスになった。
帰り道、カコの前にソウが歩いていることに
カコは気づいた。
「ソウ!」と声を掛けそうになった。
カコはソウが同じクラスにいることが嬉しくてしょうがなかった。
あのときのこともやっと謝ることができる。
そう思った。
でも、もうあのときのように目の前にいるソウに
気軽に肩に手をかけることができなかった。
あの時は簡単に届いた手。

公園の前を通ると、ソウは公園に入った。
ベンチに座りぼーっとしている。
カコは、ソウのことが気になって追うように
公園に入った。
夕方の公園は、子供たちが帰ってしまったあとで人が少ない。
カコが公園の中に入って来た事をソウが気づかないわけがない。
その事実にカコは気がついて決心を固めてソウに話しかけた。
「久しぶりだね。小学校以来かな?覚えてる。」
「あぁ。」
「あのさ。ずっとね。謝りたいことがあったんだ。」
「はぁ?」
「ちょっと立ってくれる?」
カコはソウを立たせると、横にならへのポーズをさせた。
そうして、カコは前ならヘのポーズをした。
「小学校のとき、いっつも朝礼の前こうしてたじゃん。」
ソウから返事はない。
「でね、私。ソウにいっつもちょっかいをかけてたじゃん。」
「それ。ごめんね。」
ソウは、横へならえのポーズのまま体をくの字に曲げて
くくくくくくくっと笑っていた。
「なに?」
「おれ、久しぶりに前ならえなんてしたよ。あ、これは横へならえか・・」
「わたしも。」と言ってカコもくくくっと笑った。
「正直な話、横へならえだけでも屈辱的だったのにさ
あんなにちょっかい出されてむかついてたんだ。」
カコはしゅんとなった。
けれども、私の気持ちはきちんと前にまっすぐむけないと
このままではどこへもすすめないとおもってソウの顔をみた。
「正直な話、わたしソウのことが好きなだったんだ。だから、ちょっかい
ばかりかけていたんだ。」

夕方で、オレンジ色なのか、赤なのか、青なのか、黒なのかよくわからない
空だった。
ソウは、横へならえのポーズをやめてカコに前ならへをした。

「もう、前ならえなんてしないよなー。」と笑いながら言った。
カコはくるっと逆に向いて横にならえのポーズをして
「こんなにきちんと並ぶことないもんね。」と言って笑った。

公園の向こうの方で夜の電気のつく音がぽつりぽつりとした。
ソウが「そろそろかえろうか。」といって
カコは「うん。」といって
前ならえでも横へならえでもなく二人で二人の歩幅で歩いて帰った。

ぽわり / うり