アンバランス アンド バランス

見上げた天井は低いけど、空よりも青い。
うつ伏せになっているベットは狭いけど、
寝具からは彼女の匂いがする。

「ねえ、なんであたしのこと愛してくれないの?」

だらしなく伸ばした指先を、彼女の口の中に入れる。

「あんたとじゃ子供が作れないから」

彼女は相変わらずパソコンの画面から目を離さない。
ネットオークションに夢中な瞳には無機質な魅力が光る。

「煙草吸うから指どけて」

しぶしぶ抜いた指を、いとおしげになめても、
彼女は嫌な顔一つしない。
やっぱり、私は彼女が好きで、彼女も私を嫌いではないはずなのに。
かすかな摩擦音と、ゆっくりとした呼吸が、
煙草の煙を蔓延させる。

「煙草苦手なんだけど」

「だったら10分程度トイレにこもってな
 吸い終わってあげるから」


なんて冷たくて優しい言葉なの。
あなたにあたしなんて必要ないって言ってるようなもの。

「あたしがトイレに入ってる間にいなくなるつもりなんでしょ」

「少なくともこのオークションが終わるまではこの部屋から出ないから、
 安心してこもってきなよ」

「いい、ここにいる あたしにも少し吸わせて」

「苦手なんでしょう?」

「いいから吸わせて」

きついやつだよ、と差し出した煙草で、確信犯と間接キスをする。
涙が出るほど苦いキス。
あたしと彼女のキス。

「ねえ」

「何」

「あたしのこと好きになってよ」

「好きだよ」

「愛して」

「それは無理」

「どうして?」

彼女は応えない。
半ば眠そうに目を伏せる。
怖いほど静まり返る部屋で、マウスの音だけが響いて、
まるで更新を繰り返す、変わらない未来を示してるみたい。

「愛しても、つらいだけ」

わかっていた確かな感情で、
不偏の彼女は変わっていく。

「そんなこと、目に見えてるでしょう」

こんな気持ちは、いまだかつてなかったように思う。
彼女の言葉全てが、あたしの心臓を刺激して、つかんで、離さないような。
そしてそれが心地いいだなんて。
なまぬるい空気にに漬からせておくにはもったいない。

「それでも好き」

表情は見えないけれど、彼女はきっと笑ってる。
少し困ったように目じりを下げて、
短いため息をつくの。
それがまたあたしには気持ちよくて、
彼女にのまれながら、ゆっくりと眠りに落ちる。
あたしはきっと、彼女に愛され続けながら生きていけると、
そう思って眠りに落ちる。

RO-MAN / にわとり