なまえ。

「自分の名前の由来って知ってる?」
「いや・・・知らん」
「あたしはねぇ、優しく美しくありますように」
「そんで、優美?」
「そう、なんか変?」
「あほくさぁ~そのまんまやん」

物事にも人にも固執しない性格の隆行。
ときに恋人のあたしにはそれがとても冷たく感じでしまうのだけど。
まだ恋人になる前・・・彼が酷く酔った夜に、
彼に一度だけその生い立ちを聞かされて、
だからこういう人なんだと、それはそれで納得してしまったり。
それ以来、なんとなく彼を包んであげたくなったり、
いつのまにか、ふたつのアパートがひとつのマンションになって。

ある日曜の午後、借りてきたDVDを見ながらゴロゴロしていると、
開け放ったベランダから横にいたはずの隆行の声がした。
「うん・・・で・・・知ってるかなって思って・・・」
聞き耳を立てていたわけでもなくて自然と入ってくる会話。
どうやら彼の実家への電話らしい。
お母さんに電話するんなんて珍しいこともあるのね。
リビングに戻った隆行は、いつもと変わらず無言で
DVDの続きを見ている。

その夜、いつものように抱きあって、絡まって、
もう少しであたしが深い闇に吸い込まれるというときだった。

「優美?」
「ん~?」
「俺さ、夏休暇使って鹿児島行こうと思って・・・」
「何しに?」
「いや~別に。でもオマエも休み合わせられる?」
「いいけど・・・なんで鹿児島?」
「う~ん・・・」
「親戚でもいるの?」

閉じていた目を開けて、隆行の顔を見上げた。
そのあたしの顔を一度見たあとに、彼は天井に視線をそらせた。

「あのさ、俺の名前の由来ってか・・・ホントの親父の実家?」
「ああ・・・」
「なんだか、もともと鹿児島らしいんだよね」
「そっか・・・」
「で、祖父さんが名付け親らしくて」
「それで行ってみたいのね?」
「いや、もう向こうには誰もいないらしいんだ」
「じゃ、なんとなくの旅みたいなの?いいねそういうの」

隆行が、あたしの頭を乗せていた腕枕をするりと抜いた。
そしてあたしに背を向けると、ちょっとだけ小さな声で続けた。

「俺ね、西郷隆盛の隆だった。隆盛が行くだった・・・」
「お母さんが教えてくれたの?」
「うん・・・でも親父の話って今まで聞かされたことなかったろ?」
「仕方ないよ・・・それは」
「わかってる。で、祖父さんが、ものすごく西郷隆盛尊敬してたんだって」
「そっか・・・」

いつもは強がりばっかり言ってる彼の大っきな背中が、
少しだけ小さく見えた。
手を伸ばして抱きついて。ぎゅっとして。


「来週、休み取っちゃおか。鹿児島行こうよ。」

トレモロ / マリィ。