兵庫

東京を眺めながら、ふと思う。
落ち着かない、と。



そして、帰ってきた時、ほっとした。
知らない街が怖いわけじゃない。
ただ、私はここに在りたいのだ。
この街に。
自分が生まれて、育ったこの街に。


「いい街でしょ?」
私は貴方に聞く。
「うん。綺麗だね」
好きな場所、好きなもの。全てを貴方に知ってもらいたかったから。
私はこの街を案内するのだ。
でも、もうあまり時間がないんだ。
貴方は私をここから連れ去ろうとしている。貴方の住む場所に。



だから、今は。
今、この時は。
ゆっくりお茶を飲みながらここでのんびりしたいと思う。
この街で。
私の大事な仕事が終わるまでは。
「異人館へ行こうか?」
私がにっこり笑うと、彼も優しく笑って席を立った。

杉乃里雪菜