大阪

長大な坂を今ワタシは駆けている。
尽きることのない無尽蔵の苦難が具現と化したような、
長大な坂をひたすらに駆けている。
追われながら。

苦しい。
私は依頼主を呪った。



事の始まりは興信所に勤める私がさる所から依頼をうけたことに起因する。
依頼者の話は荒唐無稽なものであった。

「大阪には地下都市があるらしいので潜入捜査してきて欲しい。」

というものであった。

いぶかしげな顔をしている私の元に資料が提示される。
読み進むうちに自分自身の探究心がアタマをもたげてきた。

結局ワタシは引き受けた。




で、我々の知る大阪という都市。
天下の台所と呼ばれ、首都東京に続く日本で2番目の副首都とも言える都市。

昔は大阪ではなく大坂と表記したらしい。

廃藩置県が当初の政府によって執行された時、
本来は「難波(なにわ)県」になる予定であった。
しかし発表の会見の時、時の府知事が「大坂」と発表したのであった。

それは未だに解決していない。
しかも今更変更もされない謎なのであった。

大きな坂と書いて大坂。
これが秘密への入り口なのである。



さらにワタシは考察した。
これほどに発達した大阪には、
面積のせまい県にもかかわらず、
未発達のまま取り残されている土地がある。

「千早赤阪村」

この時勢に大阪内に村落の存在。
意図的に開発の手をいれていないのである。

そしてここにも坂の存在。

「千早赤 坂 村」なのである。


そして私は千早赤阪村の村落の中で
文字通り秘密の入り口を発見したのであった。

それは長大な長大な下り坂。
黄泉にもつづいているのではないか?と
神話の伝承にある黄泉の比良坂を彷彿とさせる。

闇の中での感覚はなく、いったい何時間
いや、何日歩いたのかさえもさだかにあらず。
腕に巻かれたG-SHOCKもなぜか発光しない。

そして、闇は開けた。


広大な空間には光があふれ、闇に慣れた私の目を焼いた。
なんとか暗順応から明順応を果たす。
下界と地上との境界だけあって、そこには衛兵が存在し、
まぶしさに何もできないでいる私に近づいてきた。

衛兵は銀色のタイツで全身を覆っており、
円錐形の今まで見たこともないような形をした
銃とおぼしきものをこちらに向けて威嚇してくる。

「ピパパ!パピポポパ!」

・・・パ行のみで構成された怪しき言語だった。

黙って、カラダを反転させて逃げ出すと
さっきまでいた地面のあたりを怪しい光線が焼いた。

地面も、いわゆる地面ではなく銀色の鋼鈑であった。
逃げながら回りの風景をちょっとでも目に焼きつけておく。
私が幼少の頃に想像した「未来」がそこにあった。
遠くに見えるビルの周りには透明のパイプラインが取り巻いており、
その中をタイヤのない車とおぼしきものが高速で疾走している。

しかし、何故これほどのテクノロジィを隠蔽しておくのか。

いろいろな考えがアタマの中を駆け巡ったが、
今は考えに没頭する瞬間ではない。
充分に時間をかけて潜入捜査したかったが、
まずこの危機を脱しなければ。

手近にある暗所に入って、銃の照準をさける。
だが入り込んだ暗所は降りてきたときの坂道であった。

仕方がなく昇る私。
追う衛兵。
相変わらず背後からはパ行の怒声が聴こえる。
苦しい。
心臓が破裂しそうだ。
もはやどれほどの報酬をもらっても見合うまい。

もしも地上に無事たどり着けたなら。



・・・依頼主にはパ行でレポートを書いてやろうと思った私であった。

かるびぽてち