始まりと終わりの場所。

『もう 終わりにしよう。』


何度目の別れだったんだろう。
雪の降らないこの街で過ごした季節がまたひとつ。
色褪せて行こうとしている。


下げた窓から吹き込む冷たい風。いつものスピードで 流れる景色。
空いた助手席は今日も悲しげで。
あたしは今日も 気侭なドライブに忙しい。
煩いウーファーを最大にして 好きなオトの鳴り続けるオーディオで
心の泣く声を 消した。


桜の咲く頃に出会った僕らは
その桜が散っても、何度かカラダを重ねて。
葉も散り行く頃に 別々の道を歩き出した。

いつもそう。

終わりは、何かが散り行く時。

物悲しい季節。あたしは寒い季節へと一人歩き出してる。
負けないように と 長かった髪を切って 前を向く。



強がる癖が 未だに抜けない。

「オトコ友達と遊ぶのに忙しくてね。アナタにはもう逢えないわ。」

そんなの嘘。本当は逢いたくて逢いたくて、堪らないのに。
何度もカラダを重ねて、その度にあたしは彼を愛した。
それでも変わらない彼の態度、彼女への気持ち。
これ以上 自分を殺し続けることなんて 出来なかった。

だから 嘘を吐いた。

冷たい風が吹き始めた 夜だった。

「好きな男も出来たのよ。あなたよりうんと男前の。」
「あなたとは遊びだったの。好きだなんて、嘘だったのよ。
 あなたみたいな人、あたしは厭よ。大嫌い。
 流した涙だって 全部 演技だったのよ。気付かなかったの?
 バカね。 さようなら。」

本当は 誰も 居ないのよ。
この部屋に来るのもアナタだけ。
アナタ以外にあたしを気にしてくれる人なんて居なかったの。
愛していたのも 本当なの。 大好きだったのよ?
嘘の涙を流せるほど あたしの心は潤っては居なかったのよ。
気付かなかったの? バカ ね。


悲しげな彼の顔が 今も胸に焼きついてる。


重ねた嘘の数だけ、この胸に刺さった氷の棘が
抜けなくなった。
暖かい季節になっても 暑い季節になっても 
この胸の寂しくて冷たい棘が
抜けない。
融けない。

「まるで乗鞍の万年雪のようね。
 まだ融けないんだもの。あの万年雪ほど美しくは無いけれど。」

そう自嘲しながら 呟いて
あたしはこの 愛すべき 大嫌いな ナガノの街を
駆け抜けて 逃げ廻るために 今日もキーを握って 扉を開ける。


「さあ、この大好きで大嫌いな街からまたはじまるのよ。」

mosaic / 蒼海 郁