リムーブ

私は自分で言うのもなんだが、伝説のコピーライターだ。
しかしここ6年は仕事の依頼が無い。それには話せば長いわけがあって…。

最後の仕事は忘れもしない”ブラジャー”だ。
商品コンセプトは「男性が外しやすいブラジャー」。
一本の指で下からこう…チャッ!とやるだけですぐに外れるという代物だった。

ブラの製作責任者はピーコみたいなオカマで。内部プレゼン資料には確かに
『20代~30代の女性が、彼氏にプレゼントしてもらうことを狙う』
と書いてあったんだが、ピーコは悲壮な顔で私にこう告げた。

「このブラはオンナになんか似合わないっ、男性につけて欲しいのヨッ!」

結局、私はターゲットを20代~40代の男性に絞ってコピーを作った。
ブラジャーなのにターゲットが男性?この時点ですでに歪んでいたんだが
その時は私も飛ぶ鳥を落とす勢いだったから、逆に面白いと思っちまったんだ。
まったくガキだったよ。それで、完成したコピーがこれ。

『武士の愛表現 リムーバブラ、居合』

まず男心に軽くジャブを入れる武士という単語だろ。
そしてリムーバブルとブラを無理矢理かけてリムーバブラ。オヤジギャグだな。
最後に、どうしてもあの強烈な外しやすさをアピールしたかったから、
商品名にまで首を突っ込んで『居合』に変えさせてもらったんだ。

…ブラ『居合』は大方の予想通り全然売れなかった。
この仕事は悪い意味での伝説となり、私は廃業同然に追い込まれた。

消したい過去なんて自分が忘れるだけじゃダメなんだ。
全人類の記憶から消し去らないと意味がない。
ただ、良くも悪くも記憶に残るってのは、
誰かのストーリーの重要な一部になるってことなんだよな。

で、こんな私に仕事の依頼だと?あんたキチガイか天才のどっちかだろ。

***

こうして受けた6年ぶりの仕事。依頼対象はなんと『群馬』だった。

「居合ブラを越える勢いを我が県に、どうか」

県知事の使いだという広報課長は、汗をふきながらそう言って頭を下げた。
ブラを越える勢いを県に与えろと言われても…普通に困るだろ。
私と広報課長とのやり取りは大雑把に以下のようなものだった。

『そうだ、群馬行こう』 パクリ禁止

『ほんだら、群馬行くべさ』 方言でもパクリは禁止

『超勢戦隊 群馬マン!』 意味不明だが群馬マンはなかなか

『群馬マン!グッジョブ!』 よくなってきた(こんなんでいいの?)

『群馬マン!グー!』 OK!(まじかよ!)

***

『群馬マングー』

これが私の遺作コピーとなった。群馬県民は他県の住民から
「ああ、マングー出身なのね」と言われるたびにつらい思いをし
時の県知事は、このコピーにGOサインを出した責任を取って辞任。
その両者の怒りを受け、私はこの世から消される結果となった。

「冥土の土産に教えてやろう」

サングラスをかけブラックスーツに身をつつんだヒットマンは
サイレンサーが付いた銃を私の頭にゴリゴリ押し付けながら言った。

「次期群馬県知事の椅子には、あの広報課長が座ることになったよ。
お前さんのコピーのおかげだな、ヒャーッヒャッヒャ!」

私はそのとき、たしかに幸せを感じていたのだ。

Aoba