特徴と口調

高校を卒業したその翌々日くらいに、久方ぶりに、中学の友達と会った。
というか、出くわした。

ファーストフード店に入って喋っていると、必然的にそれぞれの進路の話になった。
「あたしは浪人するの」
口火を切ったのはあたしで、もう次の日曜は予備校のクラス分けテストだと言って笑った。

「わたし、横浜で一人暮らしして専門行くんだ」
紀実が言ったので、思わず、いいなぁ横浜かぁ、と感嘆した。
「なんの専門?料理とか?」
「あぁ、ノリ、家庭科得意だったもんねぇ。いいなぁ、それで中華街とかでバイトしちゃったりするんだ!」
「ううん、声優」
「……なんで横浜?」
「横浜の受けたから」
「都心にいくらでもあるじゃん!池袋とか、埼京線で三十分だから!」
「……横浜行きたかったんだもん」
行きたかった、というその安直さを変わらないと思い、そう言えば紀実はアニメが好きだったと思い出して、ちょっと懐かしく感じた。

「加奈は?どうすんの?」
「あたしねぇ、京都行く。大学受かったから」
そう言って彼女は京都にある女子大の名前を言ったけれど、生憎あたしにはわからなかった。紀実は熱心に頷いていたので、結構有名なところなのかもしれない。
「四年後は京都弁話してるからさぁ。京都人になるの」
「……似合わない」
あたしと紀実が異口同音に言った。だってなんだか、ほわほわやわやわした感じの善い京言葉を、ほとんどオトコみたいな性格した加奈が口にしている姿は、想像に難く、想像しても途中で脳が「ムリ!」と悲鳴を上げるようだった。

「だって、ねぇ知ってる?埼玉人は喋りが過ぎるから、言いたいことオモテに出さない京都人にはなれっこないんだよ?」

「なに、それ?」
今度はあたしと加奈がハモった。
「ほら、京都でさぁ『茶漬けでも食べていきなさい』って言われたら、早く帰れーって意味だってヤツとか」
それは知ってる。でも、埼玉のはなんで?
「知らないけど、そうらしいよ」
紀実の話が根拠に欠けるのも、昔から変わらない。


あの時から数年経って、あたしたちは会うことがまったくなくなった。
暮らしている土地がまったく違うのだから当然か。
一年浪人した後で大学に入って、初めて全国各地出身の人がいる集団に投げ込まれた。
結構仲のいい、亜衣という子は京都出身だけど、かなりズバズバものを言う子だ。
よくよく考えたら、そう言えば自分も埼玉出身のくせして、そう本音をストレートに言う人ではない。
だから逆に亜衣のような人に惹かれる。
加奈はそう言えば、大体直球で話をしてくる子だった。
あの子が京都の町中で、ほわほわやわやわした京言葉を、もしかしたら話しているかもしれないと、今では思う。
埼玉人気質を持ったままで。

SADOMASOCHISM / しん