東京
モノレールの中から、見慣れた景色を眺める。
小さく折りたたまれた膝の上に頬杖をつく。
大きな看板が地元の名産を宣伝しているのもいつもの事。
ただ1つ、いつもと違うのはもう帰らないと決めた事だけ。
窓ガラスに映る自分の眉間にしわが寄っているのを見て可笑しくなった。
自分が思っている以上に、今の自分は追い詰められているようだった。
モノレールは加速しては減速して駅に停まる事を繰り返す。
もうすぐ終点に着く。
終点に着く間際のビルの谷間の向こうに見える東京タワーが、私は1番綺麗なんじゃないだろうかと思う。
何度となくその景色を見たけれど、初めて東京を訪れた時に見た東京タワーが忘れられない。
ビルの合間から見える東京タワー。その頭上に大きな満月が浮いていた景色が今でも心に残っている。
同じ景色には、あれから8年出会えていないけれど。
長い階段を駆け下り山手線に乗り換え新宿に向かう。
この街で生活していく事に不安が無いなんて言わない。
不安は数え切れないほどある。
負けてしまう事だけは絶対に嫌だった。
抑えられ追いかける事を躊躇していた過去とは違う。
自分の人生を夢を手に入れたい物を追いかける為に決めた事。
どれほどの人がそれに向かってこの街に来たか分からない。
掴んだ人なんて極わずかだろう。
それでも何もしないで後悔するなら、思うだけ全部やり尽くして後悔してやる。
なんて言えば格好いいかもしれない。
本当はただの無鉄砲だと自分でも思う。
ただ無鉄砲だと思っていても間違っていると思っていても正しいと思い込みたかった。
それだけだった。
窓の外はどんどんビルの模型ばかりになってゆく。
ネオンが瞬いて、これぞ東京と言うべきか。
ドアが開いて人の波に紛れてホームに降り立つ。
連絡通路の人波を抜けて中央線に乗り換え、八王子まで。
どこに向かうのか、自分の未来は見えない。
明日のことなんてどうなるか分からない。
だから私は今を生きたいと、そう思う。
自由に思った事を後悔しないように。
窓の外はどんどん寂しくなって行く。
満員だった車内もだんだんとガラガラになって行く。
見つめる景色は、いつもと変わらない。
安易に変わってしまうのは人の心だと思う。
簡単に人の心は変わってしまうから、それに着いていけない事もあるけれど。
心で考える事、頭で考える事。
矛盾が起きる事なんて当たり前。
それが間違っているんじゃなくて、どれをどう選ぶかが大事な事だと思う。
だから私は選んだ。
2つの願いを
オレンジ色の電車が八王子に停まる。
電車を下りて、いつも上る階段を駆け上がり改札も走り抜け、階段を駆け下り北口に向かう。
「本当に来たんだな」
ここに追いかけたい物と手に入れたい者がある。