青森

ワタクシはどうやら、縁があるらしいのです。
青森の男性と。

いえ、正しく申しますと
青森の男性との「運」がございますだけで
「縁」があるのではないのですけれど。

運と縁の違いですか?
つまり結婚までは扱ぎ付けないのですわ。
どんなに異性に好かれても結婚出来ない方っていらっしゃるでしょう?
男運、女運、なんて俗語も使われますでしょう。
反対に結婚に関することは「縁談」と仰りません?


ええ、詳細をお話致しますわ。
ワタクシが物心ついてからこの歳になるまでに
お付き合いさせていただいた男性というのは
お恥ずかしいながら七人おりますのですけれど、
その男性のうち実に五人が青森に関連のある・・・。

皆が皆、青森出身だったのではないのです。
例えば御両親が青森出身の方であったりですとか、
訳あって青森に在中していた過去があったりですとか。
ええ、ワタクシは東京生まれの東京育ちでございますわ。
そうです、縁があるでしょう?青森と。
あ、いえ、ですから縁ではなく運なのです。


ワタクシこう見ても男性にはとても一途ですの。
男性に限らず物事に対して一途なのですわ、恐らく・・・。
そして、何というのでしょう、その
お付き合いさせて頂いても、必ずしも愛しているのかと言うと
それはまた違う場合もございますでしょう?
けれどもワタクシの場合、その
青森に縁のある方に限ってとてもとても愛してしまいますの。
よく言いますでしょう、東北の方は美人だって。
寒い国というのは、美を製造する何かがあるのでしょうかしら。

あら、東北が美人だと言うのは女性限定でしたの?
秋田美人?ええ、聞きますわね。
いえ、でも女性であろうが男性であろうが、
この際ジェンダーは無関係ですわ。
それに秋田ではございませんのよ、青森ですの。

津軽弁お聞きになったことございます?
何とも可愛らしい方言で・・・。
え?ええ、そうですわね、場合に拠っては通訳が必要ですわ。
けれどワタクシはもう慣れましてよ。
何せ青森の男性とは縁がございまして・・・
いえ、縁ではなく運です。


運と縁に拘る理由ですか?
ですから、それだけ愛してきた青森の男性とは
ワタクシ結局縁がなかったのです。
何故か青森の男性には浮気されるのです。
時にはその女性との・・・
そう、情事の現場に立ち会ったこともございますわ。
ですから・・・思い出すと今でも辛くて哀しくて。
如何してくれようか、あの男。
もう一度切り裂いてやろうか。


は?
え、ええ。その所為でしょうかワタクシ
一種の青森恐怖症なのでございます。
青森と聞くだけで、恐ろしくて憎くて仕方ないのです。
あの、ほら、リンゴございますでしょう、ええそう、果物の。
果物のリンゴですわ。
あのリンゴを見ただけでも、それが丸でワタクシに
わざわざ青森を思い出させるようで腹が立つのです。
リンゴなんて見渡せば幾らでも転がっておりますから
それはもう、恐ろしくて恐ろしくて。
リンゴだけじゃございませんのよ、
青森を髣髴させるものは言葉であろうと物であろうと・・・。

津軽海峡ですって?歌がございますわね。以ての外ですわ。
八戸?ご存知かしら、あちらは少々方言が津軽とは違うのですわ。
弘前?ねぶた祭かしら、嗚呼懐かしいわ・・・。


ですから、ワタクシは東京生まれの東京育ちですわ。
読み方ですか?あら、地名や人名というのは
大方そういう変わった読み方をするのですわよ。
「別府」ご存知でしょう?ええ、大分県の。
あの別府も場所によっては「びう」なんて発音致しますのよ。
それに比べれば「はちのへ」なんて小学生でも読めますわ。
あなただって十分ご存知じゃありませんか。


なんですって?あなたも青森の方なんですの?

あら・・・そう・・・。
通りで造作の整ったお顔をしていらっしゃると・・・。
そう言えば少々お言葉の方も変わったイントネィションですわね。
え?善いのよ、結構ですわ。ご無理なさらないで。
ワタクシには判るのですから。うふふ・・・。


いえ、ですからワタクシ青森の方とは、その・・・。
何を仰りたいんですの?嫌いですわ、青森なんて。

本当は?本当は何ですの?
確かにワタクシ、どなたにもまず出身地を聞きますわ。
それは青森を避ける意味ですの。
あなたには?
ええ、それはワタクシそんなつもりではなかったもので・・・。

だったら何しに来たですって?!
まあ!男の方って皆そうなのよ!
女性が嫌がるのを喜んでいると勘違いなさる。
あなたも同じなのね!同じだ!あいつ等と同じ!
お前もか、お前もか!!

うるさい!黙れこのリンゴ野郎!

何、冗談だと?!黙れ黙れゲス野郎!
はっ、知るか!!地獄へ落ちろっクソ野郎!
お前なんかくたばりやがれ、くたばれこの・・・!


・・・。

・・・。

・・・。



あ、あら。ワタクシ今、何か仰いまして?
暴れた?
まあそんなこと。ワタクシが?そんな戯れ致しませんわ。
青森が憎いですって?
うふふ。あなた面白いこと仰るのね。
ワタクシ確かに青森の方々には大層厭な思いをさせられましたけれど、
今は寧ろ感謝しておりますのよ。

何故って?
それは・・・うふふ。
それは、どの方もとても素敵なカタチになって
ワタクシを愉しませて下さったからですわ・・・。
あら、此れ以上はワタクシの企業秘密ですのよ。


さあ、ワタクシ先にシャワーを浴びますわ。
少し待っていらして。あなたはあとで宜しいのでしょう?
ええそう、あなたは終わってからですわよね。
終わってから。うふふ・・・

そうですわね、
全て終わったらリンゴを剥いて差し上げますわ。
美味しいリンゴがございますのよ。

え?
そうですわ、リンゴですわよ。


ワタクシ大好きですの、リンゴが。

大好物ですの。

深海浮遊 / minimurin