Fin.
さっきからこの電話は返答がない。当然だ。電話線が切れている。
「もしもし?僕です。もうすぐ、どこかに行こうと思います。歩いて…歩くのも面倒だし。とにかく遠くへ。方法はからきし考えてないけど。もしもし?この声が、誰かに届けばいいけど。僕は色んな人を好きだったけど、大切にはしてこなかったみたい。これからの先、大切にしてあげたいけど、僕は僕のことしか考えられないみたい」
この電話の電話線を切ったのは誰だ。僕だ。
「僕は25年弱生きてきたけど、四半世紀近く生きてきたけど、僕の軌跡は、地球にも宇宙にも、体内にも残ってないみたいだ」
がらんどうのこの部屋で、電話だけがある。電話線の切れた電話が。
「もしもし?僕です。僕はきっとどこか遠くへ。大好きだった人たちへ。優しい人たちへ。さようなら。ありがとう。僕が最後に残す、この声を、拾ってくれるといいけれど。電話線なんてなくても届くどこかで、拾ってくれるといいけれど。もしもし?僕です」