きらきら

私はSEXしかできない。
その前の駆け引きや、その後の安息の居心地が悪くて
さっさとベットに誘って、その後は嫌われるように振舞う。
好きなんだけど、好きになるのが怖い。

臆病になって、自信を無くしている私は
一方的に恋をして、一方的に失恋した。
身勝手な自己完結。
もっと『純粋』に恋をして、ときめいたりできないのかなぁ
自問自答を繰り返してるけど、まだ答えは出ない。
どんどん自分を責めて落ち込んでいくばかり。

そして、いつも一人で落ち込むことに耐えられなくなって
呼び出してしまう、友達。
朝までお酒を付合ってくれる、心優しい奴。
何も聞かずに、楽しい話を紡ぐ時間。
後悔の後、自分が嫌いで要らなくなってしまう
そんな夜に優しい時間。


エアコンが呆れた様に、大きく息継ぎをして、温風を吐き出す。
6畳の部屋は十分に暖まっているのに
なんだか、寒いような気がして布団を身体に巻きつける。

インターホンの音に私は玄関に駆け寄って鍵を開ける。
飼い主を待ち焦がれていた犬のように。

冷たい風が温まった部屋に流れ込む
鼻と頬っぺたを真っ赤にした心優しき同級生
服から立ち上る冷えた冬の香り。

いつもごめんね。そう言うと
「すぐ、ごめんねって言わない!」そう窘められた。
「だってー。」ソファベットの上で膝を抱えて私は不貞腐れる。


「そうだ、プレゼントあげる」ジーンズのポケットに手を突っ込んで
差し出した手のひらには、アイシャドウが乗っていた。
綺麗な水色のアイシャドウ。

彼のサロンで使うシャドウは、使い心地も発色も良くて
「今度頂戴ね」っておねだりしていたけれど、なにもこんな色を選ばなくてもいいのに。
「嫌だなぁ。もうこんな色塗れる歳じゃないよ。本職なんだから解るでしょ?
そういって手のひらから視線を逸らす、なんだか、眩しい水色。
「そんなこと無いよ、昔は良く似合ってたし。今だって似合うはずだよ」
そう言って私の手の上に乗せる。
ポケットの中で体温に暖められた水色のシャドウ
「こんな色付けれる自信ないよ。」


「覚えてる?服装検査の時にさ、ピアス検査あったじゃん。
その時お前さ、担任になんて言ったか覚えてる?」

私の話を無視するように、目を細めて笑う。優しい瞳。

「何年前の話?もういい加減忘れようよ」
「自分の耳指差してさ
『空けたばっかりなんです!!!これ外したら穴ふさがるんです!!!』って
担任も『そっか。じゃあ仕方ないな』って、ピアス禁止なのにさ。
お前の勢いに気おされちゃって」
楽しそうに、笑い出す。

「いつも、そうだったよな。勢いで突進って感じだった。
休み時間の度に化粧直して、女ばっかりで騒いで。
廊下ですれ違うたびに、俺達からかってさ」

同じ校舎で過ごした私達は、そんな話ばかりをする。
今の話じゃなくて、過去の話ばかり。
明るい廊下でじゃれあった日を思い出す。

「無意味に彩り豊かな手紙」「ペンケースに入ったペン達」
「透明のマスカラ」「薄付きが売りのファンデーション」「SALAの香り」
「トロール人形」「エスプリのバック」「プリーツの数を増やしたスカート」
「バスケ部の三角関係」「放送室で交わしたキス」「ポケットベル」

それは取るに足らないような、些細な事だけど
毎日をキラキラさせる為に、重要な要素だった。



酔いがまわって来て、饒舌になっている自分に気づく。
それでも、頭の中で話す事を区別する
言っていいこと。言っちゃいけない事。
その領域は決して犯さない自信があったのに。

「私はSEXしかできないの」
言葉を漏らしてしまうと、止まらなくなる
ずっと自分の心の中に溜まってしまったものを吐き出そうと必死になる。
驚いた彼の顔に「失敗したかな」とか、「こいつに話す話じゃないよな」
とか解ってるのに止まらない、もう嫌われてもいいや。
頭の片隅でそんな事を考えながら、言葉は止まらない。



「あの頃はあんなに、キラキラしてたのに、
なんだかどんどんくすんで行く気がするよ。
何かを無くしたのかな?何かを諦めちゃったのかなぁ?
私はもうキラキラできないのかな?」

そう言ったらなんだか、鼻の奥がつんとして涙が出そうになる。
涙を流しちゃまずいぞと思う。

不意に抱きよせられた。
驚いて見上げるとやっぱり優しい眼が私を見下ろす。
顔が近づいて、唇と唇が触れる。
予測してなくて驚く。

鏡に三日月が映っていた。


その後はどんな話をして、どんな別れ方をしたのか思い出せない。
酔っ払って、センチな気持ちになって交わしたキスだと思う。
目が覚めて、私は彼の唇の感触がすっかり思い出せない事が心残り。
きっと無かった事になる、キスだけれど
私の中ではちょっと幸せな記憶のかけらになる。



鏡に向かって、惰性の化粧をしながら思い出す。
あの時、三日月を映していた鏡に、映る私はニコニコしている。
視線を落とすと、朝の光に反射する香水達と一緒に
水色のアイシャドウがある。
手にとってあの日の暖かさを思い出す。

今には今のキラキラがあるんだろう。
思うと、ちょっとおかしくなる、何をそんなに焦ってたんだろう
「純粋なんかクソクラエだ。」口に出してみる
ニコニコの顔のまま、SALAの香りじゃ物足りなくなくなった私は、
香水を手にとって胸元に吹き付ける。
もう一度鏡に向かいなおして、化粧をやり直す。
水色のシャドウが似合うように。


私は、今の私に似合う『純粋』を探そう。
彼がくれた、キスとアイシャドウみたいに。
ちょっと笑顔になれる分量のキラキラを。

おいしい日々 / 和。