どれもひとつの愛情表現
「 ミラクルフルーツって知ってる? 」
「 ミラクルなフルーツ! 」
「 ・・その取り合えず言えばいいっていう考え方やめろよ 」
「 え、だってそうでしょー 」
冷蔵庫からレモンを取り出して
不満そうな君に渡す。
「 目ぇ閉じてクチ開けて 」
「 ちょ、レモン突っ込むのはやめてよ! 」
「 いやオマエが持ってるだろが 」
「 あ、そうだった 」
小さな赤い果実。
君のクチの中に放り込む。
「 ふぁ!にゃにこふぇ 」
「 潰して舌の上で溶かしてみ 」
「 こふぇがみらくる? 」
「 そゆこと 」
右手でしっかりレモンを掴んで
一生懸命クチをもぐもぐさせる。
「 1分経ったしそろそろいいかな 」
「 ふぁにがー 」
「 はいレモン丸齧りいってみよう 」
「 うぇ 」
何か言いたそうな顔つきのまま
レモンに齧りつき見開いた眼差し。
「 やっべ!甘い!なにこれなにこれ! 」
「 ミラクリンの成分だってさ 」
「 ミラクリン? 」
「 酸味を甘味に変えるらしいよ 」
尚も不思議そうに
レモンを齧ってみる彼女。
「 レモンに仕掛けがあるわけじゃないんだよね? 」
「 うんだからミラクリンだって 」
「 おおーすっげー!名前はユウコリンみたいなのにすっげー! 」
「 なんだそりゃ 」
いきなりパソコンを立ち上げ
ミラクルフルーツで検索を始める彼女。
「 うお!ショップとかあるよ!すげー! 」
「 なんか有名らしいね 」
「 なんでこんなん知ってんの! 」
「 いや、こないだ友達からメセで聞いた 」
ふーん、と適当な相槌を打ちながら
尚もレモンを齧り続ける彼女。
「 トマトとかでもいけるんだねー 」
「 酸っぱいトマトも高級フルーツトマトか 」
「 苺とか何でもいけそうだねー。すげーマジック! 」
「 確かに 」
レモンをクチから離して
彼女はコッチを振り返った。
「 あたしね、似たようなものなら知ってるよ 」
「 似たようなもの? 」
「 うん、ミラクリンじゃないけどミラクリンって呼んじゃおう! 」
「 何だよそれ 」
彼女の突発的な思いつきはいつもの事。
僕は彼女の柔らかい髪を撫でながらその答えを待った。
「 恋愛然り、友達然り、家族然り 」
「 ん? 」
「 酸味を甘味、じゃないけどさ、日常を柔らかく変えてくれるのはそういうものじゃない 」
「 ああ、なるほど 」
あたしにとって、あなたの存在がそうだよ、と
彼女はいっそう柔らかく微笑んだ。